『小学校英語はじめる教科書』は2017年に初版が刊行され、小学校英語教育の発展を目指して執筆されました。外国語教育の未経験者が指導しやすいように、教材や指導法がわかりやすく、あえて平易な言葉を選び制作したところ、指導者学生から大変好評いただきました。2020年には文科省から提示された学習評価を反映した改訂版を刊行しました。
2020年度以降、高学年は教科書の使用が進み、2024年度からデジタル教科書の導入など、小学校外国語を取り巻く環境は大きく変化しています。そこでこの度、最新の情報を加えた改訂3版を刊行いたします。
小学校の新学習指導要領が施行されてから5年が経ちましたが、多くの小学校では特に5・6年生の英語の教え方について試行錯誤しながら実施方法を模索しています。国としては専科教員を増やす方針を考えていますが、現状では担任の先生が中心となって教えざるを得ない状況です。また、専科教員が導入されたとしても、新学習指導要領がどの程度理解されているかは不明です。中学校や高校の英語教員免許を持っていても、今回の指導要領が重視する「帰納的」学習理論(言語活動→気付き→理解)は従来の「演繹的」学習理論(理解→練習→活用)と大きく異なるため、これが理解されていなければ混乱を招く可能性があります。
新学習指導要領は、従来の構造シラバス(言語構造の難易度に基づくシラバス)から、コミュニカティブ・シラバス(英語を使って何ができるかを基準とするシラバス)へと大きく変わりました。文脈のない「知識・技能」の習得から、コミュニケーションの目的に合った文脈の中で言語知識を使って「思考」し、「判断」し、そしてそれに基づいて「表現」することを通して言語を習得するという考え方に変わっています。しかし、新学習指導要領の文書だけを読んでこれを理解することは簡単ではありません。
文部科学省は学習指導要領の理解を目的とした解説書を出しており、具体的な指導方法なども示していますが、その内容は必ずしも理解しやすいとは言えないようです。そのため、新学習指導要領の考え方や内容を、具体的な事例や授業案などを紹介しながら、より実感しやすい解説書が求められています。これは特に、大学や教員研修所でこれから小学校の英語教育に携わるための準備をしている学生や先生方にとって重要です。
本書は、第1部で新学習指導要領の文言をできるだけ正確に提示し、その内容を分かりやすく説明しています。第2部と第3部では、第1部で紹介された内容を具体的な活動や授業と結び付けながら解説しています。基本的な構成は第1版から大きく変わっているわけではありませんが、新学習指導要領の施行後、国が示している新たな政策や、実際の授業で直面する具体的な問題点を考慮し、より現状に即した内容になっています。
実際の問題として、新たに教科書が作られたこと(特に5・6年生用の教科書)について少し考えてみましょう。教科書があると、その内容をそのまま教えなければならないのかという疑問が生じるでしょう。しかし、教科書はそのまま教えるべきものではありません。重要なのは、教科書で紹介されているCAN-DOや言語材料を生徒の実情に合った具体的な状況の中で利用することです。つまり、教科書「を」教えるのではなく、教科書「で」教えることが求められています。教科書はあくまでも、生徒たちがコミュニケーション活動を行うための「道具」として捉える視点が大切です。そして、そのためには、さまざまな事例を参考にする必要があります。本書では、そのような事例を多数紹介しています。
小学校の英語教育はまだ始まったばかりであり、これからもさまざまな課題が出てくるでしょうが、新しい学習指導要領を実現するために本書をご活用いただければ幸いです。
改訂3版では、mpi教材の音声・動画教材の利用がよりスムーズにできるよう改善され、最新の検定教科書光村図書出版の06版『Here We Go! 5』『Here We Go! 6』も視聴できます。
本書 はじめに (上智大学名誉教授 吉田研作)より一部抜粋、要約