こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2018年8月30日

ある小さな自治体の試み(3) 子どもたちのSWITCH ON!®

小学校英語支援団体 Friendly World
神戸女子大学 非常勤講師
長谷川和代

4月から始まったSWITCH ON! もう16回分を見ています。そうすると担任の先生からこんな質問がでました。

「同じ映像を見せるのですが、こんなに同じのでいいのでしょうか、SWITCH ON!」

担任の先生からこんな質問がありました。その気持ちよく分かります。子どもたちから、
「えー!また一緒の?」
「これやったよ!」
という声が上がると、『飽きているんじゃないか』『興味関心を失ってしまうんじゃないか』と心配になってきます。
中学校の英語教科書でいうと、Lesson1が終わり、Lesson2が終わると、Lesson1に戻るという感じです。
「え~! これやった!」
と誰でも言うでしょう。私も言います。
私たちはこのように内容が繰り返される指導をあまり受けたことがないので、これでいいのかと思ってしまいます。でも、2周目のLesson1はそのタスクがより高度になっているとどうでしょう。子どもたちは、『一度やったからできるかも』と取り組んでくれるでしょう。
では実際の授業の様子をお伝えします。

Storyのセリフ

Storyの“Good Morning”(1分間)は2回目です。より高度なタスクとはどんなものでしょう。1回目は通しで見ます。2回目を見ると、担任先生は、黒板に、下のように板書して、読んでみます。

SWTICH ON! 学びのガイドラインより Grade1 Story1より抜粋

3回目は、先生からこんな指示があります。「今日は、Jimくんになってみよう!」 Jimのセリフは、“Hi, Dad.”と“Hi, Mom.”だけです。簡単だと思うのは大人。子どもたちは、この物語をすでに丸暗記してしまっているので、なんとJimのところだけを切り離して言うことができないのです。後のお母さんやお父さんのセリフも続けて言ってしまって止まりません。『う~~~ん』私は、来週同じことが起こるなら、Storyの見せ方を工夫しようと考えていました。

次の週です。担任の先生が、
「Jimのところを言いましょう」
とタスクを出されると、なんと!!子どもたちは、ちゃんとJimのセリフだけを言えるようになっていたのです!しかも、指定されている箇所以外でも言えます。ちょっと疑い深い私は、担任の先生に、
「先週から、何回かSWITCH ON!を練習されましたか?」
と聞いてしまいました。すると、
「いいえ、一度もしていません。先週のままです」
との返事。子どもたちは、この一週間、SWITCH ON!を全然見ていないし聞いてもいないのです。脳がまとめてくれたのでしょう。一週間の間に、Jimのセリフを聞き取り、言えるようになっていたのです。お母さん(Mom)とお父さん(Dad)のセリフも言いたいという子たちまで出てきました。子どもたちのアプローチは、登場人物のセリフから覚えるのではなく、全体を覚えてから、それぞれの登場人物のセリフが分かるというものでした。注意深く聞きとる第一歩を踏み出した子どもたちがいました。 そして、担任の先生は、小学校外国語活動担当者会で
「11月の発表会はこのStoryを地域の皆さんに披露したいです」
と言われました。そんなに練習しなくてもロールプレイができることを確信されたのでしょう。地域の皆さんに見せても良い、見て欲しいと思われるようになったのです。
スパイラルに学びを深めていくSWITCH ON!を私も体感し、子どもたちの成長を見ることができるなんて、なんと幸せなことでしょう。担任の先生も支援者も共に学んでいます。子どもたちの英語が変わってきているのが私たちを元気にしてくれています。
『良質であれば、同じのを見て悪いことは何もない!』
それが私の今の素直な気持ちです。

 

顔も洗っていないのに“I wash my face.”

あるお母さまが連絡帳に、
「顔も洗っていないのに、家で、ずっとI wash my face.と言っています」
と書いてくださっていたと担任の先生が言われていました。得意顔で“「I wash my face.”と言い続けている子ども。『顔も洗っていないのに』と戸惑うお母さま、なんてほほえましい光景なんでしょう。それと同時に、私は、
「やったぁ!!」
と心で叫びました。
この話を大学の言語系の先生方に言うと、
「おもしろい!」
「これこそ言語習得の第一歩ですね!」
「素晴らしい!!」
と大うけでした。そうなんです。困惑されているお母さまに悪いのですが、大学の先生方からすると、生きた第二言語習得のモデルです。これは、かたまり(チャンク)として覚えるという第二言語習得でいう項目学習なんです。だから、私も
「やったぁ!!」
と心で叫んだのです。
でも、顔も洗っていないのにと不安を持たれるかもしれません。大丈夫です。ストーリーの映像では、Jimは顔を洗っています。それを頭に浮かべて言っているのでしょう。おおよその内容は分かっています。それは、子どもたちが幼い頃、絵本を丸覚えしてしまうことに似ています。「絵本が読める!」と字が読めないのに言っている幼児に、
「それはどういうこと? どういう意味なのか言ってごらん」
と尋ねることを勧める文学者はいないです。そんなことを言うと、絵本の楽しみが消えてしまいますから。英語も同じです。
「Iの意味は? washの意味は?」
の代わりに、
「すごい!英語うまいね!」
と言ってあげてください。そして、『おお!基礎になる英語をストックしている!』と喜んでください。
塊り(チャンク)で言うことができ、おおよその内容が分かり、そのストックが一定量に達すると、次は、気がつくんです。例えば、I wash my hands.が聞こえた時に、
「あ、washと言ってる!」と言える英語の一部分が他にも使われていることが分かるようになります。それを「規則の項目学習」といいます。
今回は、図らずも、SWITCH ON!は、新学習指導要領で記述されている「外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませるようにする」(p.13)、「基本的な表現を用いて挨拶,感謝,簡単な指示をしたり,それらに応じたりするようにする」(p.21)と合っているなぁ。と思う回になりました。

次回は「オアシスとなったSWITCH ON!」をご報告します。

過去の記事はこちらから
ある小さな自治体の試み(1)
ある小さな自治体の試み(2)


レポート一覧に戻る