こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2024年10月31日

小学校英語はじめる教科書改訂3版

聖学院大学人文学部子ども教育学科
小川隆夫

寒暖の差が大きい毎日ですが、コスモスの花をあちこちで見かけ秋を感じるようになりました。そんな10月、『小学校英語はじめる教科書』の改訂3版が出版されました。2017年の12月末、初版は紺色の表紙で出版されました。そしてオレンジ色、改訂3版になる今回は緑の表紙になりました。その間、たくさんの方々に読んでいただき、小学校教員養成大学では教科書として採用され、その数は110大学を超えました。大変ありがたいことです。

今回の改訂で私が一番書きたかったのはデジタル教科書のページでした。デジタル教科書とは、紙の教科書と同一の内容がデジタル化された教材のことで、動画、音声、アニメーション等のコンテンツは学習者用デジタル教材と言われます。そして、それは児童生徒一人一人が使用するものを指します。学習者が学習者用デジタル教材を十分に使いこなすことで「指導の個別化」と「学習の個別化」を促進させることができます。

10月27日(日)の朝日新聞朝刊に「手書きで板書を写すって重要ですか」という横書きの大きな見出しの記事がありました。小見出しには「読み書き苦手な特性の子 情報共有されず転校」が縦に書かれていました。この記事では都内の中高一貫教育の有名私立女子中学に入学した生徒が、授業の大半が講義形式で「ノート提出」が求められ膨大な板書を必死に書き写したが内容は全く頭に入らない日々が続き、合理的配慮をお願いしても学校の理解が得られず通信制高校の通学部に入学した結果、すべてPCで学習でき充実した高校生活を送ることができていると書かれていました。

彼女は小学1年生の時、注意欠如・多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)と診断され、読み書きが苦手な限局性学習症(SLD)もあったそうです。読める程度の文字は書けるが、「書く」ことに集中しなければ書けないので、内容が全く頭に入らず「黒板を書き写す」作業はとてもハードルが高いそうです。特に英語はスペリングがこんがらかって写せない、しかし英語自体は苦手ではなく中3の初めに英検2級を取ることができたとか。この時代に教育現場はまだ昔風の書き写し学習をしているの?と思う方がいるかも知れませんが、たぶんまだまだ普通に行われていると思いますし、合理的配慮といっても板書を写メで撮るなんてことは現場の先生としては考えられないかも知れません。

今、日本の教育の世界はGIGAスクール構想、ICT活用、インクルーシブ教育、個別最適な学び、指導の個別化、学習の個別化など、いかにも教育が進化しているような言葉であふれています。しかし、困っている児童生徒の支援に現場が追い付いていないことがまだまだ多いように思います。

今年度、小学校英語ではデジタル教科書が他教科に先駆けて普及し始めました。現場の先生方にはその機能、使い方を熟知し、この記事のような読み書きが苦手な特性の子には最大限配慮して欲しいものです。デジタル教科書は特にフォニックスや文字を読む学習には最適だと思います。英語の音を自分だけで聴き確認することができ音と文字と結びつけやすく、音を聴きながらシャドーイングで文章を追うこともできます。タブレットを使えば板書やノート、教科書をカメラで撮ってその画像に書き足すことで自分だけのノートをつくることができます。

『小学校英語はじめる教科書』は最新の情報をやさしい言葉で読む人に分かりやすく伝え、現場ですぐに役立つというコンセプトで書いています。この本の情報にそれぞれのアイデアを加味して、子どもたち一人一人の学びのために工夫していただけると嬉しいです。


小学校英語 はじめる教科書
ISBNコード:978-4-89643-863-5
商品コード:6863
価格:2,640円
ページ数:204頁
※第3章ではQRコードからmpi他の動画・音声教材を視聴することができ、授業に活用することができます。


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