こどもと英語ニュース　～レポート　小学校の現場から～

聖学院大学人文学部児童学科
小川隆夫

朝晩の風に秋を感じられるようになってきましたが、我が家の庭にも秋を発見しました。昨年は暑さのせいで枯れてしまった紅葉が今年はすでに紅くなってきました。先日、気まぐれに寄ったホームセンターで買ってきたケイトウも秋の強い日差しの中で鮮やかに咲いています。

さてこの9月、私は4校の授業研究会に行きました。緊急事態宣言中のため、教室に入る人数を制限し参観者は他の教室でモニターを観るという形がほとんどでしたが、都内の静かな住宅地にある小学校で英語専科と担任が行った5年生のTT授業が印象に残りました。この授業、二人の息がぴったりだったこともありますが、工夫された教材に思わず惹きつけられてしまいました。

単元は東京書籍の教科書のUnit 4 He can bake bread well.でした。目標は「身近な人たちを紹介しよう」です。よくあるのは子どもたちが何人かの先生にできることとできないことを聞きに行ってHe (She) can play baseball well.　He can't play the piano.などと紹介する形式ですが、この授業では専科の先生がこのクラスの子どもたちに関係のある先生方にあらかじめインタビューして動画を撮っていました。しかもその動画がなかなかのものなのです。

たとえば校庭で男性の先生にCan you run fast？と尋ねると、その先生はYes, I can. I can run fast.と答えて校庭を思いきり向こうまで走って行ってしまいました。「あっ行っちゃった。」と思った瞬間、こちらに向かって全力で走ってくるのです。その速いこと。子どもたちから思わず「速い！」という声が聞こえました。音楽の先生にはCan you play the saxophone？と尋ねました。何とその先生はかっこよくサックスを演奏し始めました。子どもたちはその意外な演奏にびっくり。その他にもギターを弾きながら歌う先生、テニスのラケットをかっこよく振る先生、ピアノがちょっと弾けると言って「庭のシャベルが～きっと明日はいい天気」と口ずさみながら「にじ」を弾いた先生、Can you cook well？と聞かれた時、カップ焼きそばを出してYes, I can cook well.と答えた先生。子どもたちからはくすっと笑いがこぼれました。

この授業では身近な先生の意外な面を見ることができました。しかもそれはすべて本当のことなのです。これって大切です。振り返りカードを見ると「やっぱり～先生はすごかった。」と書いていた児童がいました。この楽しいインタビュー動画、協力してくださった先生方も楽しそうでした。まさにこれぞAuthentic Materials(生の教材)の典型です。カップ焼きそばを出して料理が上手と言っていた先生の間の取り方はすばらしかったです。子どもたちからは「これって料理？」「ホント上手なの？」と声があがりました。英語はポジティブな言い方が多いですからこうしてまずはcanをいっぱい使って、こんな時もcanが使えるということを見せるのは良いことだと思います。「にじ」のピアノ演奏、ポツポツとした片手の演奏で大丈夫かなって心配になりましたが、これだってcanって言えるんだと子どもたちは思ったでしょう。

一般的にこの単元ではcanとcan'tと両方にこだわって、子どもたちに先生のcan だけでなくcan'tの部分を紹介させようとしますが、I can cook well.と言ってカップ焼きそばを見せる先生の料理の腕前は子どもたちが推測します。I can't cook. なんて言う必要はないでしょう。実際は特別な事情や明らかにできないもの以外can'tは使わないものです。私は外国語の授業は自己肯定感を育てるためにも大切だと思っています。こうしてまずはcanでたくさん言えることがあると教える授業はステキだと思いました。なおかつ先生をリスペクトして紹介する子どもたちを育てる授業は最高でした。

編集後記
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