こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2018年8月23日

英語キャンプの合言葉はBe Positive

聖学院大学人文学部児童学科
小川隆夫

毎日、暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
私は8月16日から都内のA区教育委員会主催の英語キャンプ(World School)にコーディネーターとして学生をとともに参加して、清里高原で5日間ほど過ごしました。清里は山梨県北斗市にありますが、今年は例年になく涼しい毎日で朝晩は寒いほどでした。日本中どこでも猛暑だと思っていましたが、東京からバスで3時間移動するだけで、こんなに涼しいところがあることに驚きました。

World Schoolは私が担当して5年目になりますが、今年の参加者は6年生が94名でした。そこに外国人講師(AET)20名、日本人講師(JET)15名、生活指導全般を担当する現職の先生方と教育委員会のスタッフを入れると150人近くの大所帯になります。開講式から閉校式まで、食事、ラジオ体操、キャンプファイアー、レクリエーション等、すべて英語で行われます。日本人講師(JET)は区内の小学校の先生方が担当していますが、レッスンから毎日1時間行われるAETとの打ち合わせもすべて英語ですからかなりハードです。もちろん学生たちもお手伝いしています。

 

みんなでBe Positive!

毎年、少しずつ進化させるために昨年度からは合言葉を設定しました。今年の合言葉はBe Positive!です。キャンプ中、先生方はこの合言葉で子どもたちを励まし、子どもたちもお互いに声を掛け合いながら助け合って生活をしていきます。朝早く都内を出発して、お昼に到着、昼食後2時から行われた開校式では不安だらけでポジティブどころではありませんでしたが、ここから閉校式までの5日間でいかに英語へのモティベーションを高めていくかも私の仕事です。
子どもたちは初めて出会う友達と生活を共にしながら初めて出会うAETとJETのもとで英語のレッスンを受けるわけですから心配があって当然です。しかし、生活指導の先生方のきめ細かいサポートやAETとJETの明るさに、日ごとに顔が明るくなり、声にも張りが出てポジティブレベルがどんどん上がっていきました。

 

3日目から走り出す

World Schoolのメインイベントは、最終日にあるGrand Finaleです。2日目から9レッスンを行い、その中で使われている表現を使って、自分たちで台本と役割を考えてオリジナルのパフォーマンスをステージの上で行います。
今年は、トマト農場にいる親子トマトの物語:Tomatoesからスタートし、Hungry, The Cooking Accident, Going to Hawaii, The Animal kingdom, Surprise…といった普段の外国語の授業では考えられないようなタイトルと驚くような展開のパフォーマンスが続々と登場しました。発表している子どもたちも観ている子どもたちも、その場にいる先生方も大満足したGrand Finaleとなりました。

AETは「3日間の英語キャンプは多いけど、5日間日程は他ではない。」と必ず言います。このキャンプはあえて5日間です。みんながそろそろ疲れが出てきた3日目の午後から始まるGrand Finaleの練習でグループの結束が強くなり、4日目のリハーサルを終えた頃、どのグループも自分たちだけの自主練習を始めます。もちろんリハーサルにも仕掛けがあり、必ず自分たちの前に2グループのリハーサルを見学することになっています。その後、自分たちのグループのリハーサルを行いAET・JETや見学しているすべての先生が励ましながら、改善点を伝えます。このたった数分で6年生の「もっとチャレンジしたい」という気持ちが高まるようです。そうなるとやる気スイッチが「パチッ」と入るのがわかります。そこから子どもたちは自分たちだけで数段階上の目標に向かって走り出します。そして、最終日に自信を持って堂々と発表するのです。なかなか言葉で上手にお伝えできないのですが魔法にかかったように上達するのです。これがまさに5日間キャンプの醍醐味です。

 

わからないところは想像しよう!

World Schoolの帰りのバスの中では、恒例の本音トークコーナーがあります。子どもたちも引率者も本音で気づいたことを言う時間です。ここで一人の女の子が、「初日、英語がわからず、これからどうしたらいいのかと思っていました。でも、2日目に気付いたんです。わからないところは想像しようって。」その後、続いて数名が同じようなことを言い出しました。

新学習指導要領でも、「音声で十分に慣れ親しんだ外国語の語彙や基本的な表現を推測しながら読んだり、語順を意識しながら書いたりして、自分の考えや気持ちなどを伝えあうことができる基礎的な力を養う」と述べています。「推測しながら」というのは大切なキーワードです。バスの中で「英語が上達する秘訣をつかんだね。」と子どもたちを褒めましたが、英語キャンプという英語の音が次から次へと入ってくる環境の中に身を置くと、いちいち日本語で確かめていることは不可能です。そこで子どもたちは自ら推測するという方法を見つけていました。推測することで気持ちも楽になり、だんだん勘が鋭くなって意味がわかってくるのです。

今、自治体主催や民間主催の英語キャンプが毎年増えてきていますが、何を子どもたちにつかませるか。私たちも勉強していかなければいけないようです。とにもかくにも今回のテーマ“Be Positive!”は子どもたちに伝わったようですし、わからないところはGuessだと気づいた子どもたちがいたのは嬉しいことでした。

 

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