こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2025年3月31日

教科書はデジタル派、紙派ですか。

聖学院大学人文学部子ども教育学科
小川隆夫

年度末、忙しい時期でしたが急に思い立って沖縄に飛んでみました。天気はあまり良くなかったのですが、みんなTシャツ一枚、ビーチにはセーフガードがいる見張り小屋もありすっかり夏の景色になっていました。さすがに海の水はまだ冷たく入るのははばかれましたがプールにはたくさんの人がいました。

さて、昨年9月、文部科学省が中央教育審議会に設置したワーキンググループ(作業部会)でデジタル教科書の使用拡大に向けた議論が始まりました。これに対して、今年の1月16日に読売新聞が全国の小中学校長を対象にしたアンケート結果を発表しています。それによると校長の95%が「紙の教科書と併用する」ことを望み、全面的にデジタル教科書に置き換えることへの強い懸念を示したとのことです。その理由として「紙の教科書はいつでも見返すことができ、理解や(学習の)定着にメリットがある」「深く思考するには紙の方が有効だ」などの声があったそうです。

そして、3月18日の読売新聞には「デジタル導入の「教育先進国」で成績低下や心身の不調が顕在化…フィンランド、紙の教科書復活「歓迎」という記事が出ました。2000年に始まった国際学習到達度調査(PISA)で、フィンランドの子どもの読解力は世界一でした。03年にすぐ数学的応用力、06年からは科学的応用力も測られるようになり初回は2位と1位でした。その頃、多くの学者がフィンランドの教育について調査に出かけたことを思い出しました。しかし、22年には、3分野の順位が14位、20位、9位になってしまったそうです。教育相によれば「教育は急速なデジタル化に対応できるものではなかった」とか。

ヘルシンキ郊外のリーヒマキという小都市は、フィンランドでもデジタル化に先進的に取り組んで自治体でデジタル教科書や教材が多用されたそうですが、2月下旬に読売新聞の記者が尋ねたところ、英語の授業にパソコンではなく紙の教科書が使われ解説を読んで理解した後、鉛筆やペンで問題プリントに答えを書き込むという従来のやり方で授業が行われていたそうです。昨秋から中学校の英語を含む外国語と数学の授業で使う教科書が、デジタルから紙に戻されたそうです。23年度末、中学生、保護者、教職員約2000人のアンケートで保護者の7割が紙の教科書を望み、教員の8割が外国語などの授業で紙を使いたいと答えたとか。

この他にも22年PISAで3分野1位のシンガポールでは心身の未発達の子どもに悪影響が及ぶことを懸念し、小学生にはデジタル端末を配布しないことを23年に決定したそうです。

日本ではこの2月の中央教育審議会のワーキンググループで、教科書形態として紙だけでなくデジタルも教科書として認められることを制度上明確化することを提起しています。もちろん当面、紙と併用してよいということです。

読者の皆さんは、教科書はデジタル派、あるいは紙派ですか。私は実は紙派なのですがデジタル教科書の利点もたくさんありますので、予算はかかりますが併用が一番良いと思います。新学習指導要領に向けて準備が始まっていますが、日本の子どもたちと教育にどれが良いのか慎重な議論が必要だと思います。


参考文献

デジタル教科書 なぜ利用の拡大を急ぐのか 2024/09/11
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20240911-OYT1T50000/

デジタル教科書「紙と併用を」、小中学校校長の95%が希望…文科省はデジタル拡大の方針
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20250115-OYT1T50208/

デジタル導入の「教育先進国」で成績低下や心身の不調が顕在化…フィンランド、紙の教科書復活「歓迎」 2025/03/18
https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20250317-OYT1T50203/

デジタル教科書推進WG中間まとめ
https://www.mext.go.jp/content/20250214-mxt_kyokasyo01-000040404_2.pdf


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