こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2023年12月27日

新聞読んでみた!

聖学院大学人文学部子ども教育学科
小川隆夫

2023年は小学校英語がメディアに取り上げられることがめっきり減ったような気がしました。2020年に始まった教科としての外国語がすっかり定着したからでしょうか。しかし、今回はとても興味深い記事がありましたので皆さんにご紹介したいと思います。

まずは1月31日の日本経済新聞朝刊p.33に神田外語大学の田中真紀子教授の「小学英語の課題 教員「発音」に不安強く」という記事です。田中教授は「読む」という技能は聞いたり、話したりしているだけでは決して習得できないことであり、学校教育の中で丁寧に教える必要があると力説しています。また、

英語の読みは音素(音の最小単位)の認識からフォニックス、すなわち文字と音の関係を理解させる指導へと進める必要がある。
アルファベットの音と文字の関係を習わず、英語を「見て」覚えてきた子どもたちは英語が読めず、学習につまずいてしまう。
「単語が覚えられない」のはそもそも読めないので覚えることができないのだ。また、英語を書くには単語の音を音素に分解して、文字に対応させられないといけない。英語が読めない児童は英語の音を表す文字が書けず、英語を書く技能も身につかない。

と言い切っています。さらにアルファベットの音と文字を対応させて読んだり書いたりする指導を知らない教員が多いため、この指導法を研修などで伝えていくことが必要であり、さもなければ、これまでの単語を「見て覚える」英語教育が小学校におりてきただけとなってしまうと述べ、音声指導に不安を感じている発音に自信がない教師について、

「読む」でつまずく児童が多い中、つまずきを助ける責任を負っている教員が音素の正確な発音と文字を対応させる指導ができないというパラドックスが生じている。

として、教員研修で重点にすべきことを示しています。なぜこの記事が印象に残ったかと言いますと、3月29日の朝日新聞朝刊p.32に「変わる教科書、見えた課題 小学校で来春から使用、検定結果を公表」という記事があったからです。東京書籍の外国語科教科書には88件というもっとも多くの検定意見がついたそうですが、発音とつづりの規則性を意識したページなどについたとか。その理由について

小学校の学習指導要領のもとでは、指導の際、発音とつづりの関係も「中学校で指導することに留意し、小学校では音声と文字を関連付ける指導に留めること」とされている。

と書かれていました。読者の皆さんはまだここにこだわっているのかと思われるでしょうが、文科省として学習指導要領を厳守するとこうなるのでしょう。この記事では大津由起雄・慶大名誉教授(言語学)が

中学では、小学校で習った単語や文を読み書きできる前提で授業がされていて、ついていけない生徒が増えて問題になっている。教員からも『(小学校に)何が期待されているのかわからない』などと悩む声を聞く。英語教育全体の中で小学校英語がどういう位置づけになるのか、文科省はもっと明確に示すべきだ。

と述べていますが、大津先生のご意見の通り、読み書きでつまずく中学生が多いのですから、何に力を入れるべきかわかると思うのですがそこがどうも明確でないようです。同じ記事の中で、三省堂が6年生の教科書に「山の名前を言う時は、名前の前にMt.をつけます」と説明を入れたところ、今回の検定で「学習指導要領に示す内容に照らして扱いが不適切」との意見がつき、担当者から意味のある文脈で繰り返し触れることが求められていると指摘されたそうです。これは知識を教えることになるそうで学習指導要領が想定していない指導になる恐れがあるとか。結局、三省堂は「山の名前は、Mt. Fuji (富士山)、Mt. Asama (浅間山)などのように表します」と修正をしたそうです。

せっかく小学校外国語が教科となり日本の教育に新しい風が吹き始めたところですが、いろんなことをがんじがらめにしてしまうと授業を行う先生方の創意工夫や子どもたちの柔軟な発想にまで歯止めをかけてしまわないかとちょっと心配になりました。

2024年も機会を見つけて新聞や雑誌に目を向けて皆さんとシェアしたいなと思っています。

寒い日が続きそうです。どうぞご自愛ください。


編集後記

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