こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2023年9月30日

通訳を挟まずリングにあがる

聖学院大学人文学部子ども教育学科
小川隆夫

私の大学では今週から秋学期が始まり、キャンパスは久しぶりに賑わいを取り戻しました。私は前回のコラムで紹介しましたニュージーランド視察から戻りましたが、1週間の間に真夏から真冬、そしてまた真夏という環境に身を置いたせいか、さすがに疲れを感じています。

さて、最近、記者会見でのchild abuse発言で注目を浴びた経済同友会の代表幹事でサントリーホールディングス社長の新浪剛史さんの英語の勉強法が、朝日新聞朝刊(2023/09/09)で紹介されました。そのタイトルは「通訳を挟まずリングにあがる 英語で発信続けるサントリーHD社長」というものです。

新浪さんは大学3年生の時、スタンフォード大学に交換留学をしていますが、卒業後、三菱商事に就職してから再度勉強してハーバード大学のビジネススクールに留学してMBAを取りました。そんな彼もTOEFLには大変苦労したそうです。とにかく問題集を何十回もやって、試験そのものも何度も受けたそうです。特に苦労したのがリスニングだったとか。私もIELTSで苦労しましたので、これを読んでみんなそうなのかとちょっと安心しました。ビジネススクールでは英語を学ぶというよりクラスのみんなを説得するために苦労した毎日だったそうです。6~7割しか理解できない状態で発言をすることになるが間違ったことを言うと減点で、寝る時間を3時間くらいにして1日10時間~12時間勉強したそうです。やがて3か月くらい経ち英語に慣れてくると「みんな中身はたいしたことないな」とわかってきて自信がついたとか。

周囲を説得するために大事なのは準備で、優秀な人たちの2倍やるそうです。司会者の関心事を調べ議論の流れを想定してテーマに関連するあらゆる知識をあらかじめ集める。特に大事なのは自分自身の関心事、日本に関係した話を思いっきり集めるとか。今も楽にこなせないそうですが、紙をいつでも見られるように手元に用意し必要な表現を覚え工夫を重ねているそうです。

通訳を挟まず自分で発信するのは、言葉に込められる「言霊」みたいなものがあり自ら自分の言語でしゃべって意思を伝えなければいけないと思っていて、通訳を挟まずリングにあがって議論を戦わせることで、自分の言いたいことが伝えられるし、そういう発信がリーダーの役目だと思っているからだそうです。

最近、一般的な英会話学校ではなく、コーチングを売りにした英会話学校が注目されています。そこでは英会話そのものを教えるというより勉強の目的を明確にしてそれぞれの目標に導いてくれます。3か月なら3か月で最高のパフォーマンスが出せるように支援しながら一緒に走ってくれるコーチがいるのです。新浪さんはコーチがいなくても信念を持って工夫しながら自分で走れるタイプなのだと思います。

最後に日本の英語教育の課題について次のように述べています。日本人が英語を実践で使えないのはしゃべる機会が少なすぎる。小学校から英語教育をちゃんとして、専門のネイティブスピーカーから授業を受けられる環境をつくらないといけない。伝わる主張の仕方を学び間違いを恐れず英語で話せるようにする。留学に行ける仕組みを整え海外の友達をつくる機会を持ち、コミュニケーションが楽しいからもっと英語を学びたい、英語を学ぶからもっと海外に行きたいと思う正のサイクルをつくるようにする。

なるほど同感ですが、なかなか進まないのが現状。これから新浪さんのような方が英語教育にも意見を述べてくださることで少し前進するかも知れませんね。


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