こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2021年7月8日

世界の同世代と話せるように!

聖学院大学人文学部児童学科
小川隆夫

この時期はアジサイが雨にぬれてとってもきれいですね。私は6月、小学校で行われた4つの研究授業に参加し、保育園実習をやっている学生の様子を見に2つの保育園を尋ねました。どの教育現場でも先生方、職員の皆さんが全力で頑張っている姿を見て元気をもらいました。

話は変わりますが、1990年代初頭、文部省(当時)の小学校英語研究指定校が大阪に誕生しました。それから30年。私は日本の子ども達がやがて世界の同世代の子ども達と共通の話題で話せるようになって欲しいなと願っていました。しかし、今でさえ日本の子どもたちは外国の子どもたちとの交流会では好きな食べ物、好きなスポーツというようなものを一通り話してしまうとあとが続かずに無言になってしまうと言われています。2000年代になり小学校外国語活動が総合的な学習の時間で行われて20年が経過してもなかなかこの壁が超えられないのです。小学校高学年ならそれなりに思考力・判断力が働き、いろんなものに興味・関心が高まっているはずです。小学校の他教科ではかなり難しい内容を学習しています。そろそろ難しい表現でなくても高学年の発達段階にあったトピックで話ができたらいいなと思います。

そんな中、都内の小学校6年生の研究授業がありました。単元はLet's go to Italy.という定番のもので、目標は「おすすめの国や地域とその理由について、短い話を聞いてその概要が分かり、伝え合ったり、話したりすることができる」でした。クラスの児童を8グループに分けてそれぞれが旅行代理店の社員になりおすすめの国を紹介するという設定でした。

実はこの授業の準備のために何度か担任の先生と話し合い、ただ単に有名な建物や名物料理の写真を見せても、自分が実際に見たことがない建物や食べたことがないもものは紹介する方も紹介される方も感動がない、それなら担任の先生が普段の授業で触れているSDGsの観点でその国を紹介しようという結論になりました。そこで私は2016年3月に東京都教育委員会が作成し都内の小学校に配布したWelcome to TOKYO Elementaryという都の独自教材を紹介しました。このテキストは東京にいらした外国の人たちに日本や東京のことを英語で教えて、質問にも英語で答えられたらいいなという思いで作られていますが、東京を外国の方々に紹介する視点が面白いのです。東京を紹介するには東京タワー、スカイツリー、浅草と定番だけではないよと気づかせてくれます。たとえば東京の水を紹介しているのです。それも水道水tap waterです。蛇口から出した水をそのままで飲め、かつ美味しく安全な水はそれこそ世界に自慢できますし、外国の方々に紹介したいことなのです。別に難しい単語を使っているわけではありません。

Tap water is safe. Tap water is clear. Tap water is delicious. Tap water is useful.

どうです。これだけでも東京の水がどんなに素晴らしかを紹介できます。外国の方はホテルで水道水を飲みたくなるでしょう。

私は小学校で学級担任をしていた頃、クラスの子どもが校庭に置き忘れたサッカーボールを教室に持ってきて授業に使ったことがあります。そのボールにはMade in Pakistan.と書かれていたのです。実は世界中の革製のサッカーボールの多くはパキスタンで作られているのです。サッカーボールは32枚のパーツにわかれていてそれを糸で縫い合わせてボールにします。サッカーボールだけでもこんなにドラマがあるのです。これをヒントに子どもたち一人ひとりが興味のある国を紹介しようという授業にしました。パキスタンを選んだ子は子どもが学校に行かずにサッカーボールを作っていると紹介したのです。つまり児童労働Child Laborの問題です。それもそんなにたくさんの英語を使わなくてもそれが言えたのです。これは今でいうSDGsになります。

先ほどの小学校の授業に戻りますと、授業では典型的なその国の観光用写真を見せた後、それぞれの子どもがドイツのエネルギーシフトのこと、フィンランドのごみリサイクル、カナダの野生動物保護など、それぞれが調べたことを国の魅力として易しい英語で伝えていました。児童それぞれの視点で集めた情報の発表はとても独創的なものになりました。こうした積み重ねをすることで世界中の同世代の子どもたちと意見を交換できるようになるかも知れないと思えるようになってきました。文部科学省は自分の本当の気持ちや考えを言うことを奨励していますが、6年生の知的好奇心や発達段階にあった内容を扱い発信の方法を工夫することで小学校英語はもう一歩前進するでしょう。
ちょうど6月12日は「児童労働反対世界デー」でしたので自分が実践したサッカーボールの授業のことも思い出しました。


編集後記:小川先生が講師を担当するJ-SHINEプログラムが7月29日から始まります。記事あるように多くの小学校の現場を視察されているので、小学校の今とこれからをお伝えできる貴重なプログラムになっています。

J-SHINEプログラムの様子がわかる動画はこちら

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