こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2020年6月3日

小学校外国語科の教科書は個性的!

聖学院大学人文学部児童学科
小川隆夫

大学ではオンライン授業が続いています。先日、小学校教員養成課程の小学校英語指導法の授業で子ども時代に歌ったチャンツや歌は忘れないものだという話をしたところ、こんなコメントをくれた学生がいました。「小学校の頃、歌とチャンツをいっぱい教えてもらい楽しい英語活動を経験したが、何より「英会話たいそう」が忘れられない。懐かしくなってYouTubeで探して妹と一緒にしばらくの間、歌いまくったら驚くことに今でも完ぺきに全部を覚えている。」とのこと。松香洋子先生が聞いたらさぞかし喜ぶだろうなと思いながら読みました。彼女はmpiがサポートしていた新座市の小学校出身でした。改めて子ども時代の英語活動の影響力の大きさを感じました。やはり良質なインプットは大切ですね。

さて、いよいよ小学校の授業が再開され、外国語活動、外国語科も本格的に始まりますが、私は先日、小学校外国語科の教科書を取り寄せてじっくり見ました。

全部で7社から出ていますが、どの教科書の表紙も色鮮やかです。特徴はまず教科書の名前ですが、2つのグループに分けられると思います。

A: 中学校版の教科書の名前を踏襲しているところ
JUNIOR TOTAL ENGLISH (学校図書)、NEW HORIZON Elementary English Course (東京書籍)、CROWN Jr. (三省堂)、Junior Sunshine (開隆堂)

B: 個性的な名前をつけたところ
ONE WORLD Smiles (教育出版)、Blue Sky elementary (啓林館)、Here We Go! (光村図書)

表紙は子どもの肌の色もとりどりで異文化を感じさせます。自分の地域の学校でどの教科書が使われているかは各自治体のホームページで調べることができます。中にはその教科書を採択した理由が書かれている自治体もあります。今回は全国から7つの自治体の選択理由を見てみました。それぞれ表示方法が違いますが、こういう風に教科書を見ているんだと参考になると思います。ぜひ、目を通してください。

なお、教科書は7社の5・6年生用を全部揃えて5千数百円です。全国の教科書を取り扱う書店などで購入できます。小学校外国語教育に関心がある方はそろえても良いかと思います。

各自治体の教科書を選択した理由

1. 札幌市 NEW HORIZON Elementary English Course (東京書籍)

単元冒頭に学習のゴールを明確に示すとともに、学習した表現を巻末に書きため、スピーチ原稿として活用できるページを設けるなど、課題探究的な学習が可能な構成となっている。また、英語を使った短いやりとりが豊富に示されており、英語によるコミュニケーションへの意欲を高めることができる内容となっている。さらに、別冊の絵事典を活用して 子どもが表現したいことを自ら調べ、書く学習活動に意欲的に取り組むことが可能な構成となっている。
https://www.city.sapporo.jp/kyoiku/kyokasyo/documents/02shougakkousenteiriyuusho.pdf

2. 東京都狛江市 JUNIOR TOTAL ENGLISH (学校図書)

英語を活用する場面に則して、自然で実践的な表現が使われていることなど、実際に外国語を使う、日頃から英語に触れる活動内容を評価し、総合的に判断。 (委員からの主な意見)
  • 難しすぎて、(英語を)嫌いになるのが良くない。外国語は嫌いにならないことが大切。一般の教師が授業を行うことも考えて内容を吟味する必要がある。
  • 街案内の活動をはじめ、テーマと活動がしっかりとマッチングしており、非常に丁 寧に扱われている。
  • 実際に使いやすくイメージしやすい場面設定が適切になされている。
  • (英語)表現が非常に自然である。ネイティブの方が聞いても疑問に思わない。

http://www.komae.ed.jp/_resources/content/4611/20191121-122843.pdf

3. 埼玉県熊谷市 Here We Go! (光村図書)

「聞くこと」「話すこと」を重点的に行い、十分に慣れ親しんだ後に「読むこと」「書くこと」の学習に移る工夫があり、中学校でのラウンド制に対応できるようになっているため。
https://www.city.kumagaya.lg.jp/about/soshiki/kyoiku/gakkokyoiku/oshirase/saitaku.files/saitaku.pdf#search=%27Here+we+go+%E6%8E%A1%E6%8A%9E%E7%90%86%E7%94%B1%27

4. 岩手県岩泉町 Junior Sunshine (開隆堂)

ペアやグループ活動を取り入れて協働的・対話的な言語活動を行うことを通して、コミュニケーション能力の基礎が育成されるよう配慮されている。また、巻頭の「CAN-DO マップ」で学習の見通しを明示し、児童と教師が共有できる工夫が施され、学習状況を各単元の最後にふり返る場面を配置することで、児童が主体的に学習できるよう工夫されている
http://www.town.iwaizumi.lg.jp/docs/2019101800035/file_contents/1111.pdf#search=%27%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%A4%96%E5%9B%BD%E8%AA%9E%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8+%E9%96%8B%E9%9A%86%E5%A0%82+%E6%8E%A1%E6%8A%9E%E7%90%86%E7%94%B1+Junior+Sunshine%27

5. 千葉県佐倉市 ONE WORLD Smiles (教育出版)

  • 学習指導要領への対応
    1. 児童の興味・関心にあった題材を多く取り入れ、自分の考えや気持ちを相手に伝える言語活動ができる構成になっている。ペアやグループで取り組むコミュニケーション活動が充実している。
    2. 国語科や道徳等で学習した教材を英語で学ぶ活動をはじめ、他教科との関連を図りやすい内容が配置されており、キャリア教育、保健衛生、防災等の内容を含めて横断的な学習が容易に行えるよう工夫されている。
    3. 4技能5領域がバランスよく扱われており、領域別に目標を達成できるような内容が、適切に選択・配列されている。
  • 内容
    1. 単元のゴールを見通し、聞いて慣れ親しむ活動から徐々に発信活動につなげる構成になるように工夫されている。
    2. 小文字を書きやすくするため、2線と3線の幅をやや広めにし、手書きに近い書体を使用している。6年生では、国語科の学習と連携が図られている。
    3. 自分のことから学校や地域、国内、海外へと徐々に話題の視点が広がっていくように構成されている。
    4. Let's Read and WriteやFinal Activityにより、児童が主体的に取り組めるよう工夫されている。語彙の補充のため、My Word Bankが設けられている。巻末に「資料・付録」として、My Bookの作成により、中学校へのつながりを考慮している。
  • 造本
    1. 挿絵や写真、イラスト等で学習意欲を高めるとともにQRコードを配することで自律学習を促す工夫がされている。授業で学習した外国人の声を家庭で聞くことができるなど、自分で学習を進めることができる。印刷は、鮮明で表紙・装丁・紙質もよくしっかりと製本されている。色覚に配慮したカラーユニバーサルデザインを使用している。
    2. AB版で巻末にMy Word Bankとして授業で使う単語をまとめ、使いやすくしている。巻末絵カードは紙質を工夫し、ミシン目で切り離しやすくしている。

https://www.city.sakura.lg.jp/cmsfiles/contents/0000011/11840/R1_omonariyu.pdf

6. 鳥取県倉吉市 Blue Sky elementary (啓林館)

  • Let's Read and Write では5年で1文字ずつ取り上げ、1年間をとおして活字を識別して書けるようにし、6年では慣れ親しんだ表現を用いて書いたり発表したりする活動が設けられている。
  • 毎時間に学習事項の振り返りができるようになっており、どれだけ達成できたかを 振り返って色を塗り、児童が自分の成長を実感できるようにしている。
  • 各単元での[Looking Back]での項目に、英語で言いたいけど言えなかった、もっと 知りたいことの記述を設定し、small talk につなげたり指導者にとっての振り返りにしたりできる。
  • 各単元は短く簡単な表現を聞くことから入り、単元の終わりに向かって緩やかに話す活動へと移行していく流れで構成されている。
  • Review ではリアルな状況・場面を設定して思考を働かせて自分の思いを英語で表現できるようにしている。

https://www.city.kurayoshi.lg.jp/user/filer_public/01/66/0166f164-d948-4cdd-9ded-c1f518f70f4c/yi-an-r1730hp.pdf#search=%27Blue+Sky++%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%A4%96%E5%9B%BD%E8%AA%9E%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8+%E6%8E%A1%E6%8A%9E%E7%90%86%E7%94%B1%27

7. 東京都八王子市 Crown Jr. (三省堂)

ホームページでは最終的に選択した理由が見つかりませんでしたが、7社を比べた調査研究報告書があり、その中からCrown Jr.部分を以下に抜粋しました。

  • 内容
    1. 配慮している。
      • 外国語活動の内容からの接続が円滑になるように配慮している。
    2. 発達段階に応じて興味がもてる内容になっている。
      • 5、6年ともに、毎学期に3つの大単元を設定し、さらに、各学期に HOP,STEP,JUMPの小単元に分けて、見通しをもち、知識と技能を習得し、最後に実際の場面で表現しながら活用できるようになっている。
  • 構成上の工夫
    1. 配慮している。
      • 児童が推測したり、表現したりす る内容が多い。・コミュニケーション活動では、グループでの活動を中心とし、主体的、協働的に学び合えるようになっている。
    2. 発達段階に配慮している。
      • 「聞く」活動では、よく知られている童話などを用いるなど工夫している。ユニバーサルデザインに関する配慮
        1. 読みやすい表現になっている。
        2. 印刷、写真、挿絵、図形などが 見やすく、情報が多いので児童の理解の支援になっている。
  • 使用上の便宜
    1. 配慮している。
      • 慣れ親しみが深まっていくように、活動等が組まれており、教員と児童双方に授業の進度がわかるようになっている。
    2. 教科書内では家庭学習に対応できるような内容は見られない。
    3. 配慮している。
      • さまざまな地域に配慮している。
  • その他
    • 単元の目標が単元の最初に記載 されており、児童と教員が目標を共有できる。
    • 5年生の世界の学習の単元では、世界地図や時差の掲載、実践 英語などを多用し世界について分かりやすくしている。
    • 世界のことをより深く知ることがで きる内容が多い。
    • まとめと振り返りがあるが、使い 方を考える必要がある。
    • QRコードが付いており、単元の目標などを聞くことができるように なっている。

【令和2年度(2020年度)八王子市立小学校使用教科用図書調査研究報告書(選定資料作成委員会)より】
https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/kyoiku/003/004/012/p025243_d/fil/01-13.pdf


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