こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2020年3月30日

オーストラリアの小学校で実習

聖学院大学人文学部児童学科
小川隆夫

今年は入学式が中止や縮小の学校が多く、新入生にとっては寂しい春になりそうですが、読者の皆様はお元気でお過ごしでしょうか。まずは待ちに待った小学校外国語の評価が3月27日に国立教育政策所のホームページにアップされたことをお知らせします。これからは、これに基づいて評価についての話し合いが持たれることが多くなると思いますので、ぜひご一読ください。
https://www.nier.go.jp/kaihatsu/pdf/hyouka/r020326_pri_gaikokg.pdf

さて、私は3月11日にフリンダース大学での研修を終えて学生たちとともにオーストラリアから戻りました。シドニーからのカンタス航空はいつもですと高校生の修学旅行で満席ですが、今回はガラガラで乗客は100人もいなかったと思います。さて、2月のコラムではアデレードのチャイルドケアセンター(保育園)について書きましたが、今回は公立小学校のことです。訪問したのは100年以上の歴史がある美しい校舎に広々とした校庭に木々が生い茂っている小学校です。2度ほど訪問し、初回は授業を見学し、2度目には学生たちが授業実習をしました。

アデレードでは公立小学校よりも私立小学校の人気が高いそうですが、この小学校は評判がよく地域住民に信頼されている学校とか。まずはキャンパスツアーからスタートしましたが、途中に立ち寄ったかわいい図書室に学生たちが思わず足を止めてしまいました。この図書室にはもちろん司書の方がいて何でも相談できるそうですし外からも自由に入れるようになっていて、休業期間中も利用できるそうです。そして、次に行ったのが2年生の教室です。ちょうど日本語の授業で「ひな祭り」のことをやっていました。

この小学校は日本語教育が有名でオーストラリア生活が30年になる日本人男性が先生でした。授業では国民性もあるのかどの子もよく話します。コミュニケーション活動が活発だと上達も早いようです。休み時間に校庭を歩いていると私たちを見つけてすぐに自己紹介をしてくる子がたくさんいました。自分の日本語が通じるか試したいようです。休み時間は校庭で子ども達と遊んで、次の時間は大きな木の下で授業をしているファンデーション(5歳児)のクラスを見学しました。ここでは手遊び歌や童謡をいっぱい歌っていましたので、学生たちも一緒に楽しみました。
2度目の訪問の時は、ちょうどアセンブリーアワー(朝会)がありました。体育館のステージの上で低学年がダンスをしながら歌っていました。続いて高学年の5人の代表が登場して環境問題についてパワーポイントを使ったプレゼンテーションをしました。ここで驚いたことが3つあります。1つは環境問題へのアプローチがよく考えられていることとプレゼンテーションが熟達していることです。日本でも外国語で「話す」を「やり取り」と「発表」に分けて発表に力を入れ始めましたが、小さい時からプレゼンに慣れているとこうなるという姿を見たような気がします。

2つ目は全校児童が集中して一生懸命に話を聞いていること。小さい頃から人をリスペクトすること、話をよく聞くことを常に指導されているそうです。自由でおしゃべりが大好きなオーストラリアの子ども達ですがこの点はすごいです。日本人の先生が都内の高校で講演した時、生徒のマナーの悪さに驚いたそうですが、私たちも見習うべき点がありそうです。

そして、3つめが高学年で発表した5人がメモの代わりにiPadを持って登場したことです。3年生から全員にiPadが配布されノートに書くというよりタブレットでまとめていくそうです。低学年の教室ではABCの文字と音についての掲示やAll About …のような掲示がありますし、日本語のクラスでは丁寧に文字を書かせていますが、3年生から1人1台iPadが配布されノートや鉛筆代わりになっているようです。現地のお母さんと話したところ、小学生で手書きが少なくなっているのには不安もあるそうです。日本では英語はスペースや語順を意識して4線の上に書くなどと言われていますが、ICT機材が一人ずつに配布されると将来はどういう指導になっていくのかなとちょっと心配になりました。
この日、学生たちは2年生27人のクラスで授業実習をしました。「おにぎりころりん」を英語で読みながら日本語を教えるチーム、動物の鳴き声を英語と日本語で比較しながら教えるチーム、日本の食べ物の名前と色を教えるチームに分かれました。この学校の児童に「一番好きな授業は?」と聞くと、みんな日本語の授業と答えるくらい日本語の授業は人気があります。そんな授業の1回をお借りするわけですから、学生たちはかなりの時間をかけて必死に準備しました。この海外研修ではチャイルドケアセンターと小学校での実習に使う英語を集中的に勉強します。子どもはこんな質問をしそうだとか、子どもからこんな質問が出たらどう答えるか、どんな言葉がけで集中させるのか、注意をするときの言葉がけは…など徹底的にシミュレーションして練習します。まさに「必然性のあるやりとり」を集中的に学んでいきます。本人たちはあまり気付かないのですが実はこれがものすごく効果的で英語力がどんどん向上していることがそばで見ているとよくわかります。小学校外国語では「必然性のある…」がキーワ―ドですが、ことばの学習には本当に効果的だと思います。
最後にもう一つ、私の大学では幼稚園・保育園の先生を目指す学生のためにSmile Englishという授業を昨年9月から開講しました。授業では全員にまず『英会話たいそう』をマスターさせていますが、この研修に参加している履修者の2人によると、『英会話たいそう』の96のフレーズでホームステイでも結構しゃべれたそうです。普段の生活でそんなに難しい表現が必要なわけでないことと『英会話たいそう』の表現を応用するだけで話が繋がっていくことが実感できたとか。
春とはいえ今年は外出を控え、家にいることが多くなりそうですね。私は評価の資料でもじっくり読んでみようと思っています。皆様もどうぞ健康にご留意ください。

編集後記:ベストセラーの英会話たいそうは子どもの教材と思われがちなんですが、実は英会話の基本の基本。96個のフレーズで大抵の事は乗り切れます。

関連商品
96のフレーズで英会話はばっちり
英会話たいそう
テキスト: 907円(税込み)
付属CD: 2200円(税込み)


レポート一覧に戻る