こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2019年5月30日

Mr./Ms.の後は? 名前は異文化理解の良い教材

聖学院大学人文学部児童学科
小川隆夫

大雨の日があったり、急に暑い日が続いたり、この夏はどうなるんだろうと心配になるような天気ですが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。
さて、この春、60歳以上のシニアの大学生が全国で98人誕生したそうです。なんとその中の大学史上最高齢77歳の鈴木いね子さんが私の大学に入学しました。
その様子は5月12日、テレビ東京の『日曜ビッグバラエティー池上彰のニッポン先取り〜今知っておきたい重大ニュース〜』で放送されました。鈴木さんは60年代に経済的に大学で行くことができなかったそうですが、5年前にご主人と永別し、今、草書、仮名、隷書を深く学びたいという思いで大学に入学し、若い学生たちと充実した大学生活を送っています。
最近、私の授業にも定年退職されたシニアの聴講生が増えています。その方たちの共通点はしっかりとした目標があることです。英文法をもう一度学び直したい、異文化理解について深く学びたい、孫のために小学校英語を勉強したいという方もいます。シニアの方たちは予習復習を欠かさずによく勉強しますし、授業中の発言も多いので若い学生たちに良い刺激を与えています。やはり一生勉強ですね。

そして、今回のもう一つの話題です。
5月の連休明けから各地の小学校で英語の授業研究会が本格的に始まりました。私もすでに3つの小学校に伺いました。ある小学校で2年生の授業を見せていただいた時です。元気なあいさつで始まりましたが、子ども達が先生にGood afternoon, Mr.Kenji (名:first name).と言っているではありませんか。放課後の研究会で「Mr.やMs.の後には姓:last name, family nameですよね。」と、言うと「それって、今日、初めて知りました。」という声が出ました。実は小学校ではよくあることです。単純なルールですが混乱している先生が多いのです。きっと実践で使うことが少ないため意識することもなかったのかも知れません。そして、もっとも混乱するのが担任の先生をMr./Ms.+姓で呼んで、ALTをMr./Ms.+名で呼ぶというケースです。担任の先生は自分にMr./Ms.がついているので、ALTには姓か名などと意識せずに子ども達にMr. Antonio(アントニオ先生)とかMs. Jasmin(ジャスミン先生)などと呼ばせているようです。ALTも多くの場合直そうとしません。こうしたことが後々、大きくなってもMr./Ms.の使い方がわからない原因になってしまうのかも知れません。
今月お会いしたフィリピン出身のALTはMr. Ramosでした。フィリピンではSantos:サントス、Carlos:カルロス、Ramos:ラモス、Casanova(カサノバ)などとスペイン語、ゲルマン語、ポルトガル語、イタリア語などを語源とする姓などがよくありますが、姓には文化やお国柄が反映されています。これは異文化を知る上でとても効果的です。姓を聞いただけでどこの国の方なのか何となくわかるのです。つまりALTの名前は異文化理解のための良い教材と考えられます。ぜひ、Mr./Ms.+姓を徹底できるとよいなと思います。もちろんALTによってはfirst nameでいいよと言う方もいると思います。その方にはMr./Ms.なしが良いでしょう。

そんな折、文化庁は日本人の名前をローマ字で書く際は姓→名の順で書くように、官公庁や報道機関などに通知を出して呼びかけるようにしたそうです(朝日新聞朝刊(2019/05/28)。2000年にも同様のことがありましたが徹底しませんでしたが、2002年からはすべての中学校の英語教科書が姓→名の順になりましたし、小学校の教材のHi, Friends! でも“My name is Suzuki Sakura.”のように自己紹介していました。
日本サッカー協会は選手名を姓→名に統一しているそうですが、クレジットカードの印字は名→姓、楽天やトヨタ自動車も名→姓を使っているとか。東京五輪を控えローマ字表記が姓→名になるのか注目したいところですね。また、これによってMr./Ms.を付けて呼ぶときに混乱を起こさないとよいですが。

姓名のローマ字表記についての考え方

世界の人々の名前の形式は,「名-姓」のもの,「姓-名」のもの,「名」のみのもの,自分の「名」と親の「名」を並べて個人の名称とするものなど多様であり,それぞれが使われる社会の文化や歴史を背景として成立したものである。世界の中で,日本のほか,中国,韓国,ベトナムなどアジアの数か国と,欧米ではハンガリーで「姓-名」の形式が用いられている。
国際交流の機会の拡大に伴い,異なる国の人同士が姓名を紹介し合う機会は増大しつつあると考えられる。また,先に記したように,現在では英語が世界の共通語として情報交流を担う機能を果たしつつあり,それに伴って各国の人名を英文の中にローマ字で書き表すことが増えていくと考えられる。国語審議会としては,人類の持つ言語や文化の多様性を人類全体が意識し,生かしていくべきであるという立場から,そのような際に,一定の書式に従って書かれる名簿や書類などは別として,一般的には各々の人名固有の形式が生きる形で紹介・記述されることが望ましいと考える。
したがって,日本人の姓名については,ローマ字表記においても「姓-名」の順(例えばYamada Haruo)とすることが望ましい。なお,従来の慣習に基づく誤解を防くために,姓をすべて大文字とする(YAMADA Haruo),姓と名の間にコンマを打つ(Yamada,Haruo)などの方法で,「姓-名」の構造を示すことも考えられよう。
今後,官公庁や報道機関等において,日本人の姓名をローマ字で表記する場合,並びに学校教育における英語等の指導においても,以上の趣旨が生かされることを希望する。

出典: 文化庁「国語施策・日本語教育 国際社会に対する日本語の在り方」

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