こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2018年10月26日

ある小さな自治体の試み(5) 子どもたちのSWITCH ON!®

小学校英語支援団体 Friendly World
神戸女子大学 非常勤講師
長谷川和代

「青天井」のSWITCH ON!

担任から、
「へ~~~!すごーい!」
の声と一緒に大拍手が出ました。
この授業の指導案の内容は、以下の通りです。

①Let's watch the DVD. (Story2 Happy Birthday! 字幕)

「今日は Tom君になってみよう」と伝え、フレーズを DVD と一緒に言う。フレーズにフォーカスできるように、必要に応じフレーズを板書するのもよい。

字幕ONですので、字幕+音声が流れます。子どもたちがTom役になりセリフを言う予定でした。しかし、実際の授業はこの通りではなかったのです。どうなったの?
「音無しにしてやりたい!」
と子どもたちから声が上がりました。そこで、担任の先生は子どもたちの要望に応えて、音声OFFにして流されました。子どもたちは喜んで、一斉に言い始め、完全に言うことができたのです。
支援者間の情報シェアで入ってきた情報を受けて、私は早速、自分の支援校でも担任の先生に「音声OFF」でやってみることをお勧めしました。
「やってみます。できるかな。。」
と担任の先生は少し心配。でも、
「今日は音声なしでやってみます」
と言われました。直ぐに子どもたちから、
「え~~~!できない!」
の声が上がりました。そこで、担任の先生はボリューム1とされ、かすかに聞こえるくらいにされました。
映像が流れ始まると、子どもたちは、「できない」と言っていたことなどすっかり忘れて、一斉に言い始めました。効果音も、ナレーションも言っています。大きな声で、一斉に、それは、それは、楽しそうでした。今までで一番楽しそうだったと言っても過言ではありません。次のABC Songも音無しでやって欲しいとの要望で、音無しのまま、映像が流れました。子どもたちは嬉々としてアルファベットを声高らかに言っていました。心配されていた担任の先生からは、びっくりされ、子どもたちの方を向いて、
「すご~~~い!!」
の声と大拍手でした。
『うちのクラスは無理かもしれない』
という気持ちは少しはあったと思います。でも、こうやって、子どもたちは担任の先生の『無理かも・・』を打ち破っていきます。子どもの可能性は「青天井」と言いますが、
『できない』
『英語は難しい』
『無理』
と挑戦しない透明な天井を作っているのは、もしかすると大人の方かもしれないですね。英語で苦しんだ経験がある人ほどそうでしょう。でも、今の小学校英語は、私たちが習ってきた英語教育とはアプローチが違います。音声から先です。音声から先というのが経験がないのですが、それは、子どもたちが「音声が先」の英語教育の結果を見せてくれています。それを見た大人の可能性も「青天井」ですね。
We Can!が入ってきて、教える事が多くなりました。いろいろ余裕のない授業ですが、その中で、オアシスとなったSWITCH ON!が教えてくれた「青天井=無限の可能性」でした。子どもたちにも先生たちにも笑みと達成感が舞い降りてきました。楽しいひとときでした。

本当に教えなくてもいいの?

さて、2学期も中旬になり、SWITCH ON!を振り返ってみたいと思います。
「SWITCH ON!は担任が教えなくても良い」
「自然な英語に触れる時間の確保」
「学級格差、学校格差を少なくする」
との目的でSWITCH ON!が導入されました。この自治体では、指導案の中に組み込まれていますので、自然な英語に触れる時間は全ての子どもたちに確保されています。学級格差、学校格差も統一指導案のおかげで一斉に実施しますので、その差はごくわずかです。では、一番関心のある「担任が教えなくても良い」というのはどうなのでしょう。
先生方は「教えない」経験がない上に、「本当に聞くだけで上手になるの?」という疑問もありました。実際やり始めると、教えなくても良い代わりに、コーディネータ役がありました。最初は戸惑われていた担任の先生方ですが、もう、ルーティン化していますので、「Let's watch the DVD.」「Let's sing together.」「Let's listen.」「この役になって言いましょう」「動作しましょう」声掛けは、ごく自然に行われています。何を言うのかは、モジュールシナリオ案に沿っています。SWITCH ON!はただ単にクリックして聞き流したり、見ておしまいではなく、担任の声掛けと誉め言葉で進んでいくことが分かりました。そして、回を重ねるごとに、子どもたちの英語は自然なスピードと抑揚になってきています。体と心で感じ、頭を働かせているんだと感じるこの頃です。この先がとっても楽しみになりました。
もう一つおまけは、We Can!の‘Let's Watch and Think'をかける前に、
「え~~っと。。あ! Let's watch the DVD!」と言われていた担任の笑顔、いい感じでした。
また、We Can!とSWITCH ON!のデジタル版を比較できることで、これから担任の先生方の気づきが出てくると考えられます。

ジムはJimじゃない

ところで、SWITCH ON!も2周目になってくると、セリフを言うタスクが出てきます。担任の先生が
「ジム役になって一緒に言いましょう」
と登場人物の名前を言われると、子どもたちは
「『ジム』って誰?」
担任の先生は、
「え、ジムってジムなんだけど」
と戸惑うシーンがありました。これは他の小学校でも同じように起こっていました。
子どもたちにとれば、カタカナ発音の「ジム」と映像で流れる「Jim」は違った音として聞こえていて、「ジム」の真似をするといっても「ジム」が登場していないとなります。担任の先生は、画面を指さして、「ジム」と示さなければならないということになります。「ジム」と「Jim」は違うと言えば当たり前なのですが、私には嬉しい驚きでした。中には、
「Jamやで」
と言っている子もいました。Jim[dʒím]のiは、日本語の「イ」ではなく、もっと口を開いて「エ」に近い音となります。そんな説明をしなくても、正確に音を捉えている子どもたちの耳の良さは素晴らしいです。発音に厳しくなくても良いという声もありますが、自然な英語を繰り返し聞くことで発音に対しての敏感性が養われるのであれば、それに越したことはないと思います。理解可能なたくさんのinputができているということですね。


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