こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2014年8月22日

『児童が活躍する外国語活動~「言いたい」「言わせたい」「言えること」のはざまで~

2014年8月22日
『児童が活躍する外国語活動』
~「言いたい」「言わせたい」
「言えること」のはざまで~

大田原市英語活動指導員
J-SHINE(小学校英語指導者認定協議会)トレーナー
mpi会員 大伴 久美

レポート:小学校英語の現場から

「言わせたいことは覚えない。」いえ、いいのです。定着は求めず、コミュニケーションの素地をつくるのが私たちのお仕事。でも実際には「これが言えなきゃこのゲームできないよ。」ということも多いのです。 JTE(*1)はなるべくたくさん聞かせて言わせて自信を持って活動に移れるよう心を砕いて授業にあたります。もしも教えたことを子どもたちが全部覚えて使ってくれたらどんなに感動するでしょう。でも実はもっと感動することがあるのです。 授業の流れの中ではありますが、でもその時の活動ではない場面で「言いたいことを言っている」子どもの姿です。

ある日6年生の活動で“Hi, friends! 2”を使用する場面がありました。
担任の先生が“Take out My friends 2.“とおっしゃいました。それを聞いたクラスのムードメーカの男の子A君が、しばし”My friend……”とつぶやいた後、 机間巡視していた私に大きな声で隣の男の子B君を指さし、”My friend!”と嬉しそうに教えてくれました。その男の子B君に先のA君を指して、”Your friend?”と尋ねると”No.”という返事が返ってきました。もちろん二人は仲良し。 周りは大うけです。するとA君はちょっと離れたところに座っているC君を指して”My friend !”と懲りずに紹介してくれました。当然C君にも”Your friend?”とA君を指して聞いてみました。するとC君はにっこり笑って”Yes!“と答えてくれました。 A君は”Yeah !”と大喜びでした。クラスメートも楽しそうに見ていました。

単語レベルではありますが、立派に英会話になっているではありませんか。A君が「これは使える!」と思ったときに、気持ちに知っている言葉が乗っかったのです。 B君も冗談として知っている英語で返しました。なかなかユーモアのセンスがあります。最後にC君がうまくまとめてくれました。「こういうセンテンスと単語でこういうことを言おう。」という教師が求める会話活動ではなく、 「言いたいことを知っている言葉で言う。」という自発的な子どもたちの会話が成立しました。ちなみに、そのとき教えていたのは”What time do you~?”でした。

子どもが「言いたいこと」と教師側が「言わせたいこと」また子どもが「言えること」の間にはギャップがあります。3つの要素が三位一体ならこれほど幸せなことはないでしょうが、しばしばそうはいきません。 しかし限りなく近づけることができたら、言いたくもないことをいやいや練習して発表させられる不幸な子どもや、一生懸命教えているのになかなか活動が進まないことにジレンマを感じる教師は減っていくことでしょう。

うまく三位一体の活動ができたことがありました。1年生のクリスマスの授業で5つのパーツに切り分けた星を組み立てて裏に描いてあるクリスマスに関係あるものあてるアクティビティをしていました。 一人一つずつ星のかけらを持って同じ色のかけらを持つ仲間をまず探します。“Red. Red.” “Blue. Blue.”とお互いに声をかけ合います。あるグループが4人まで集まってかけらを組み立てていたとき、1つ足りないとわかりました。 でもクラスの全員かけらを持っていたはず。そこでそのグループはALTが最後の1つを持っていると気づきます。
4人でALT(*2)のところにやってきて”Red”といって手を出しました。すかさずALTは
”The red one, please.”と言い直します。子どもたちはその英語を一回で覚えました。4人が一斉に ”The red one, please!” と言い、 最後の赤いかけらをもらってパズルを組み立て絵を完成させました。このとき活動を見守りながら「使う必要があるときに覚える」=「言いたい」「言わせたい」「言える」が一致するのだと思いました。

3つの要素の重なりがなるべく大きくなるように授業をデザインできればこれに越したことはありません。しかし35回の授業には限りがあります。「本時のめあて」以外にも授業の内外、あんなところでこんなところで大きな重なりのチャンスを 逃さない目を常に持って子どもたちと接したいと思っています。

最後におまけ。
教室での出来事ではありませんがあるエピソードを紹介します。
私の住んでいる那須塩原市には塩原温泉という観光地があり、毎年4月に温泉地を走る「塩原温泉湯けむりマラソン全国大会」が催されます。 会場が地元の小中学校ということもあり、親子ペアの部や中学生の部などもあるローカル色の強い大会です。英語と関係ない?
いやいや、もう少しお付き合いください。
私がゴールしたあと、ゴール地点で応援をしていたときのことです。小学生と思われる男の子2人がALTと思しきランナーに「リトル!リトル!」と一生懸命声援を送っていました。 最初はどうしてマラソンで?と疑問に思いましたが、ゴール手前を喘ぎながら走るALTに「もうすこしだよ!」と言いたかったのだと思い”Almost”のほうがいいよ。と(自分が教えているお子さんでもないのに)教えてしまいました。 ALTは無事ゴールし”Almost”と叫び続けた男子2名はやってきたお母さんとおぼしき女性に「うるさい。」と怒られて”Almost”連呼事件は幕となりました。

おそらく「あと少し」を“Little”と習ったことはないと思いますが、言いたいことに知っている言葉を当てはめて大声で叫んでいた少年2人の姿に感動を覚えました。
教室でこれができたらと思ったことは言うまでもありません。

*1:JTE 日本人英語指導者
*2:ALT 外国人指導助手JTE

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