こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2013年3月12日

小中連携のゆくえ

2013年3月12日
小中連携のゆくえ

J-SHINE小学校英語育成トレーナー
常葉学園短期大学非常勤講師
mpiパートナー会員
溝口良子

レポート:小学校英語の現場から

厳しい寒さが続いています。私が住む掛川市の小学校や幼稚園ではインフルエンザがはやり出しました。 毎年の事ですが、受験シーズンになると何かソワソワ落ち着かないのは私だけでしょうか? また、この時期は勉強会などのお誘いも多く、中学校の先生方とよくお会いします。 「小学校で英語が始まって、中学英語も変わりましたか?」 私の質問に、「変わりましたよ!」とおっしゃって下さる先生方がほとんどです。 良く? 悪く? その先は、言葉を濁してしまう方が多いのも事実です。

中学校の先生方のお話をご紹介しましょう。
① 小学校英語が始まって子ども達は変わったか?
良くなった点 →
ALTに臆する事がない。
一番最初から発音や発話にためらいがない。
聞き取りの力がついている。

悪くなった点 →
中学入学時点で、英語の能力に差ができている。
小学校で英語嫌いを作ってしまっている?
英語はお遊びという悪い習慣が抜けない。
小学校で学んだアルファベットやQAセンテンスを再学習する事を嫌がる。
(特に最初の1ヶ月)

② 小学校の先生と連携を取れると思うか?
ほとんどの先生が、「出来る」とおっしゃって下さいました。ただし、どんな形でという具体的なものは、見えてきません。実際、「Hi,friends!」を活かす様な工夫を授業で行なっているのか?という問いに、 ほとんどの先生が「Hi,friends!を見た事がない。」とおっしゃいました。

③ 小中連携に向けて、どの様な取り組みが出来るか?
授業視察、情報交換し、小学校の内容を取り入れた授業を中学入門期に行う。
教室英語の共通化、同じALTが両方教える。
市オリジナルのボキャビルやQ&Aセンテンスを小学校高学年~中学校でインプットさせて、コンテストなどをやってはどうか?

実際、小学校で習ったことはあまり記憶にないような生徒が多く、中学校の先生方もどのように対応して良いのか悩んでいるようです。 「小中連携」という言葉をあちこちで耳にしますが、実際に実践している所は本当に少ないように思います。

2013年2月3日日本児童英語教育学会(JASTEC)中部支部と冬期研究大会が開かれました。 函南中学校の内藤淳先生が発表されました内容を、紹介致します。
静岡県の伊豆市にある田方教育研究会は、静岡県の田方地区の公立小中学校(函南町立函南中・東中、伊豆の国市立韮山中・大仁中・長岡中、伊豆市立修善寺中・中伊豆中・天城中・土肥中とそれらの中学校に進学する20校の小学校)の 教職員が所属し、英語と外国語活動に関わる30数名の教員が英語部のメンバーとなっています。

<平成21年>
○ 田方教育研究会英語部で、小学校外国語活動についての研究を開始する。
○ 小学校6年生のクラスで、中学校教員T1、小学校担任T2の地区授業研究を行う。
(ねらいは、小学校の外国語活動を知る為に、地区の中学校英語教員がどんな授業にするか検討する)
○小学校では、様々な試行錯誤の中で、素晴らしい実践を行ないつつあるので、中学校の都合で助言や 提案をするという発想を捨て、中学校独自でできる事を考えて行く事にする。
○アンケートから新入生の実態をきちんと把握し、そのまま受け入れながら中学校英語の方向性を考える。

<平成22年>
○ 4月行なったアンケートの結果と、授業を始めてみてからの生徒の実態に応じて、1年生が小学校の外国語活動で経験して来た事を活かせる工夫を各学校で行なう。
○ 12月に再度アンケートをとる。4月の時点で「話せる」と回答していた「誕生日」「行きたい国」などの話題に対し、12月では「話せる」という回答が減ってしまう。
○ 小学校の外国語活動を活かす為に「話す力」を伸ばす事が課題となる。

<平成23年>
○ 研究テーマ決定 「小学校外国語活動を活かした「話す力」をのばす指導の工夫 ?会話を楽しく続ける為に?」
○ 年間指導計画の作成
地区の英語教員に1つづつのユニットを割り振り、全員で作成作業を行う。「既習事項の活用」と「英語ノート」「Hi, friends!」との関連について共通理解を持つ。

(B 中学校の活動例)
自分の好きな有名人の名前・職業・出身地を伝え合う。1年生のHe / She is~の表現に、小学校で学習した職業名・出身地を付け加えて文章を作ってみる。 

(C 中学校の活動例)
くじで決まった相手と会話を1分間続けるテスト。4月にテストの予告、6月にテストを行なう。 毎時の帯活動として、「あいさつ」「住んでいるところ」「好きなもの」という話題を10分程度練習する。それを積み重ねていくことで、1分会話を続けられるようにする。 相手の言葉に相づちを打ったり、反応したりすることを心がけて会話する。

実際の会話の様子を録画されたDVDで拝見しました。生徒達はメモ書きなど一切持たず、相手の顔を見ながら楽しそうに話していました。 会話はたどたどしいものでしたが、伝えようと言う気持ちや、相手の話を理解したい気持ちが強く伝わり、中学生としてのユーモアを交えながら話している姿に好感が持てました。

(D 中学校の活動例)
「食べ物」「行きたい国」とテーマを決め、使える表現を継続的に練習し、2分間会話を続ける事に挑戦した。 小学校では一問一答が多かったが、ただ答えるだけでなく文を付け足したり、質問して会話を続ける工夫をする。あらかじめ提示した質問をしたり答えたりすると1ポイント、 自分について新たな情報を付け加えたり、話題を発展させる質問をしたりすると2ポイント加算する。ポイントで評価する。

12月にアンケートを実施。
「行きたい国の話題について会話できるか?」活動を行った2つの中学校の[はい]と答えた生徒の割合。
(D 中学校 4月 41% → 12月 63%)(E 中学校 4月 14% → 12月 35%)
「英語で話す事が好きか?」多くの生徒が小学校で学んだ事を中学校で活かせた具体例を記入した。
(小学校で英語が好きだった 42% → 中学校で英語が好き 51%)
(「はい」「どちらかと言えばはい」の合計 小学校 80% → 中学校 85%)
たとえ定着を目指していないとはいえ、実際には小学校での外国語活動で、生徒達は英語に関する様々なものを身につけていて、それを23年度は中学校で活用できたと感じた。

<平成24年度>
○これまでの研究を受け、2年生3年生で目指す英語活動を地区の英語教員全体で話し合い、検討した。

内藤先生からは、「田方地区の研究は、厳密には「小中連携」とは言えず、中学校側が小学校で行われたことを活かそうとする実践を一方的に行っただけかも知れません」というお言葉を頂きました。 小学校での外国語活動は、先の見えないどこまでも続く暗いトンネルのように思っていましたが、この田方地区の活動に「中学校の英語に小学校の英語が活かされている」という微かな希望を感じました。 小学校の英語活動に関わる私たちも、中学の先生方と寄り添いながら英語活動を考えて行く必要がありそうです。

昨年4月より松延先生と交代で連載させて頂きました「未来へのバトン」小学校英語実践報告、 今月が私の最後の連載となりました。私にとっても、改めて小学校での英語活動を見直す良い機会となりました。ありがとうございました。


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