こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2012年8月1日

ティーム・ティーチングによる外国語活動

2012年8月1日
ティーム・ティーチングによる外国語活動

小学校英語指導者(J-SHINE)育成トレーナー
枚方市小学校英語指導助手・樟葉小学校勤務
松延亜紀

レポート:小学校英語の現場から

 私が入っている市は全校にJTEを配置し、担任とのTT(ティーム・ティーチング)を行っています。5年前にこのシステムが導入され、その翌年に「担任が主導となってTT(ティーム・ティーチング)を行う」という市の方針が示されたと記憶しています。当初先生方は困惑されていらっしゃるようでしたが、これから先の外国語活動は、「自分たちが中心となって行う」ということをしっかり見据え、新たな取り組みを始められました。
 T1,T2(主指導者、授業支援者)とはそれぞれどういう動きを取るのか、TT(ティーム・ティーチング)を効果的に行うにはどうしたらよいか、について、経験を通して気付いたことを次に述べさせて頂きたいと思います。
 まず、T1とT2が打ち合わせを密に行って、リズミカルに授業を進める事の大切さです。これは、落ち着きの無いクラスには特に有効です。リズムの良い授業を行うには、まずお互いを知り、信頼関係を築くことが大切ですが、週に一、二度の勤務の中、外部講師と教員が信頼関係を築くことはそう簡単ではありません。

 “担任に寄り添う気持ち”
 そこで私が試みた姿勢はこれでした。「外国語活動」についてどう思っているか正直な気持ちを話してくださる先生はそう居られません。でも、多くの先生方は「やらなくては」と、思っておられます。その気持ちを大切にし、徐々に「外国語活動」への理解を深めてもらえればと考えています。この考え方が正しいかどうかはわかりません。ただ相手の気持ちを思いやったり察する事は、信頼関係を築く上で大切ではないかと思います。
「やらなくては」という気持ちが「やっていこう」と思ってくださるようになる事が、本当の意味でのT1(主の指導者)としての意識が出来ることであり、授業内容にも興味が出て、良い意見交換が出来る打ち合わせにもなると思います。そうなればきっと子どもたちにとってももっと、「効果的な外国語活動」が出来るようになると思います。

 “「やらなければ」から「やれそう」へ”
 私は前任校で3年勤務させて頂き、ほとんどの先生と2,3年続けてTT(ティーム・ティーチング)での活動をさせて頂きました。そのうち1人の先生とは5,6年の2年間、一緒に活動をしたのですが、組んだ当初は、教室のご自分の机のそばから離れず、私に近づいてくださいませんでした。私は児童が前を向いたとき、視界の中心に担任の姿があると安心すると考えているのと、T1(主の指導者)が中心に立つことが子どもを混乱させないと考えているので、教壇の真ん中に立たないようにしています。ですから黒板の前は当然不自然な空間がありました。「この先生は英語が苦手なのだろうな」というのはすぐにわかりました。 しかし先生はその位置からしっかりクラスマネージメント。つまりクラスが、ざわついたり、聞く姿勢が悪いときちんと注意をしてくださったので、意外にも、このクラスは外国語活動に大切な「聞くマナー。話すマナー」が一番良かったのです。
先生は当然、最初は一切英語を話されなかったので、最初からT1(主の指導者)で活動を行ってもらうのは酷な事だと感じました。それで活動案の一部の内容を主に行ってもらう事で、まず外国語活動の指導に「慣れ親しんでもらおう」と考え、復習の所を担任の先生にやって頂くようにお願いしました。先生は快く引き受けてくださりましたが、ご自分から発話せず児童から語彙が出るようにうまく指示をし、めりはりのある復習の形を取ってくださいました。私はそれを受けて児童の声が小さかったり、発音が不明瞭な語彙のみ再度発話させる形で復習をサポートしました。このように少しずつ授業の割合を私から担任に移行していくうちに先生の立ち位置が端から教壇真ん中へと移り、私との距離も縮まってきました。そして6年の後半は”Good job!” ”Let’s start!”や”Stop!”など簡単なクラスルームイングリッシュも増え、積極的な姿勢が感じられました。そして6年生の授業終了の頃には、「なんかやれそうな気がしてきました」とおっしゃってくださいました。 小さな進歩かもしれませんが、嬉しい一言でした。
授業とは、指導側が「楽しい」と思うことが子どもたが楽しく学べる一つの大事な要素だと思います。「やれそう」と言ってくださった先生は教壇の真ん中に立たれるようになってから、児童への声掛けも増え、楽しそうに指導されていました。私たちJTEは一人でも多くの担任の先生にこう感じてもらえるサポートをしていく事が大切だと考えます。

 TT(ティーム・ティーチング)にはいろいろな形がありますが、私は、「担任の先生がT1(主の指導者)となる形」が、クラスの実態に応じた良い授業を実践するのに最適な方法ではと考えています。それについて、先月溝口さんが示してくださった3つの活動内容から1つを、改めて述べさせて頂きます。
 
<発表教育>について。
担任の先生は発表の際に「誰から始めるか。どのように始めるか」を、的確に判断し、取り扱ってくださいます。 声掛けも適切で、ポイントをきちんと押さえて良いスタートを切ってくださいます。
 出席番号が1番だったA君は、初めての発表活動の時、1番に当たりました。物静かなA君は声が出せませんでした。HRTは「よっしゃ。ほんなら最後にもう一度当てるからええか?」と声を掛け、最後に発表をするよう促しました。その時の彼の発表は声も小さくぽつぽつした発表でしたが、彼の頑張りはクラスのみんなに伝わるものでした。 先生はそれからの活動時間もあえて、出席番号順での発表を続けられA君は嫌そうに出てきてはいましたが、だんだんと声は出るようになりました。 
卒業前の発表の事です。先生が「ほんなら誰から発表してもらおうかな」とおっしゃったすぐ後に、A君が立ち上がったのです。 毎回そうだったのでそう思い込んだのです。先生は「まだ、なんも言うてへんで。やる気やな。よっしゃ前出てこい」というとA君は「違う。違う。」という感じで首を横に振りましたが、先生の押しに負けて前に出てきました。 そしてA君は一番にもかかわらず見事な発表をやってのけたのです。担任の先生と私は、彼の成長に驚き、嬉しくなって顔を見合わせて笑いました。
 授業後職員室で「あいつ、うまくなりましたよね!」という担任の嬉しそうな顔に、私はA君の成長を見守ってきた先生の愛情を感じ、嬉しくなって大きく頷きました。こういう気持ちの共有もTT(ティーム・ティーチング)ならではです。

 現在私は、大阪府の「小中連携の専科教員による授業」というプロジェクトで中学校の先生とTT(ティーム・ティーチング)を行っています。中学校の先生は朝来られてから放課後授業が終わるまで行動を共にします。ですから、授業案について十分話し合いが出来、授業をリズムよく進める事が出来ています。
 小学校英語は、専門知識だけでは進められないと私は考えています。児童を理解している担任の先生が、活動に加わっていただくことや先生からアドバイスを頂くことは、この活動を2人で進める中でとても大切に感じていることです。TT(ティーム・ティーチング)には色々な方法がありますが、どのやり方にも利点と課題があると思います。今後どのような形態で進んでいくかわかりませんが、いろんな形を取りながら互いにコーチング、つまりお互いが教師になって、お互い指導者として力を付けていくことで、より効果的な外国語活動へと進化させていくことができると思っています。


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