こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2010年12月2日

「英語ノート」とmpi教材のコラボ

湯川 英子
2010年12月2日
「英語ノート」とmpi教材のコラボ
~コミュニケーションのための英語活動を目指して~
J-SHINE小学校英語指導者
mpi セミナー会員
JTE(英語指導補助員)
湯川 英子(兵庫県)
レポート:小学校英語の現場から
● 小学校に入ったきっかけ
私がチャンツや英語の歌に興味を持ったのは、中学生たちが、「先生、俺らかっこいいやろ。」と、得意げに大きな声で英語の歌を歌っている姿でした。その中学校では、英語の歌やチャンツを授業に取り入れ、教材として有効に活用していました。かつて私が受けてきた英語教育からずいぶん進化しているなぁと感心したのと同時に、もっと歌やチャンツを楽しむ英語指導法を学びたいと思い、mpiに出会いました。2009年、公募により市内の小学校英語JTE(英語補助員)に採用され、今年度は2校を兼任しています。mpiで学んだメソッドを小学校英語の指針として現場で実践しながら、日々、子どもたちと共にたくさんの発見や感動をいただいています。

● JTEの役割
私の住んでいる市は2006年、国の構造改革特別区域「『読む・書く・話す・聞く』ことば文化都市特区」の認定を受け、日本語及び英語教育や児童生徒のコミュニケーション力の向上に力を注いでいます。小学校英語においても2011年の必修化に向けて、市内全小学校にJTE(指導補助員)が配置されました。

JTEの役割は、小学校5・6年生を対象として、「英語ノート」を基に作成された市独自の外国語活動年間指導計画を学校の状況に応じて実施し、担任がT1となる授業を展開することです。また、教材等の充実、校内研修や中学校との連携など必修化に向けて環境を整えていくことです。市の目標として、①4Q(日にち、曜日、天気、自分の気持ち)が言える。②アルファベットが読める、③自分の名前がローマ字で書けるようになる。の3点があり、全員ができるようになることをめざしています。また、市内英語教育の研究会や講演会等に参加したり、市のJTE同志で教材研究や情報交換などを行ない、情報の共有化、小学校英語の向上に努めています。

● 英語ノートとmpi教材のコラボ
授業は市の外国語活動年間指導計画の順序に従い、「英語ノート」の内容に沿って進めています。「英語ノート」は一単元が①導入・国際理解 ②キーセンテンスの定着(練習、ゲーム) ③自己表現活動という流れで構成されています。「英語ノート」という素材に命を吹き込み、いかに生きた活動にするかは担任の先生及びJTEの手にかかっています。単元ごとに学年の先生方とミーティングを行い、どのような自己表現活動をするのか、そのために何をしたらよいかなどを話し合います。現在のところ、毎回のレッスンプランは私が作成し、授業前にその日のめあてやアクティビティを担任の先生と確認します。

mpiの歌やチャンツの教材はウォーミングアップに使っています。日直の英語あいさつの後、バナナじゃなくてbananaチャンツをリズムにのって言います。これは日本語と英語の違いを知ることだけではなく、「さぁ今から英語の授業が始まるよ。」という切り替えや声を出す練習に役立っています。子どもたちは「一緒やん~」と言いながらも違いをしっかり聞き取り、英語の発音を上手にまねしています。チャンツのリズムが頭から離れないらしく、授業の後も口ずさんだり、~じゃなくてクイズを友だちと出し合っています。子どもたちはビデオゲームやメディアなどで多くのカタカナ英語を知っているので、bananaチャンツは意味や正しい発音を知ることにつながります。「あっそうやったんか。」と気づき、納得している子どもたちの姿が見られます。

次に、歌・チャンツタイムです。“I like coffee,I like tea”、“Songs & chants 2”、“Superstar songs”などから取り上げています。“Mother Gooney Bird”は人気のある歌で、5年生ではクラスが一体となって歌って踊りました。一部の少し動きの鈍い6年生もリズムに乗ってからだを動かしました。「英語わかれへんから」と最初から英語を聞こうとしなかったり、恥ずかしがっている子どもも中にはいますが、mpi教材のノリのいいリズムやライムを含んだ歌詞は、すぐに子どもの心をとらえて、自然にからだを動かし、口をついて英語がでるようにする魅力があると思います。

「英語ノート」でのゲームや自己表現の方法などはmpiのセミナー及び研究会のメンバーの方々のアイデアを参考にすることが多いです。ショーアンドテルやインタビュー活動では、「英語で自己表現ワーク」のアイコンを参考にして、一目で手順がわかるようにしています。子どもたちは何度もアイコンを目にするうちに発表の仕方やマナーが身に付いてきているように思います。

● 担任の先生がT2からT1へ
4Qは担任の先生の役割で、完全にお任せしています。自作の4Qカードを教室の壁に貼って練習するなどそれぞれのクラスで工夫が見られます。また、担任の先生が英語を使うことによって、子どもたちが臆することなく声を出していきます。その他、担任の先生はデモストレーションの相手や「英語ノート」のアクティビティの答え合わせを担当しています。私の話す英語を捕えて、繰り返したり、日本語説明を加える先生もいます。とてもわかりやすいジェスチャーをしてくださる先生もいます。JTEの役目は担任の先生がT1になるお手伝いをすることなので、担任の先生の担当部分を増やしていきながらティームティーティングを進めています。担任の先生や子どもたちが積極的にクラスルームイングリッシュを使い、担任の先生がT1、子どもたちが主役の英語の授業になるのが理想です。

● コミュニケーションのための英語に向けた取り組み
知的好奇心旺盛な高学年に発見を与えたり、興味を持たせたりしたり、英語のできる子どもにも対応するには、mpiのセミナーで学んだ*「i+1」や「本物を使う」指導法が役に立っています。たとえば、世界のニュースを引き合いに出して興味を持たせたり、視野を広げたりして、国際理解につなげます。また、世界で活躍するスポーツ選手や、アニメやシンガーの写真を使用したり、学校の先生方を例に出すこともあります。その他、「集団を動かす的確な指示の出し方」も役立っています。子どもたちが夢中になっているゲームを終了するときなどは、私の指示は通りにくいので、担任の先生がストップをかけています。このようなとき、担任の先生のお力は本当にすごいなぁと感じます。

新学習指導要領では、英語を楽しむだけではなく、英語を使って自己表現をすることが求められています。コミュニケーションのための英語を身につけるために必要なこととして、現在取り組んでいるのは、スピーチやインタビューにコメントを言う、相手の話に反応することです。発表に向けて、「英語で自己表現ワーク」を参考にコメントを言う練習を取り入れています。近年、電子黒板が小学校に導入されたことにより、DVDやインターネットなどの利用も可能となりました。今後は、電子黒板も有効に活用していきたいと思っています。

● 連携中学校とのアンケート結果から
課題として文字に関することがあげられます。市内連携中学校が中学一年生に小学校英語についてアンケートを取ったところ、自由記述に「小学校のうちに単語を書く練習をしたかった」とありました。定期テストに書くことが出てくる中学1年生2学期頃から英語の成績が下がり始めるとの結果も出ています。話し合いの結果、絵カードには文字を入れる、キーセンテンスも文字にして見せるなど、できるだけ文字を目にする機会を増やし、慣れることが有効ではないかという見解で一致しました。英語ノート2の「アルファベットで遊ぼう」の単元では、mpiのフォニックスアルファベットなどの教材を使用し、文字と音の関係に気づくよう促していきたいと思っています。また、アンケート結果で「小学校英語が楽しかった」「役に立っている」と答えた生徒は半数を超えていました。小学校での楽しい英語活動経験が子どもたちのコミュニケーション能力の育成につながっていけばと願っています。

*「i+1」=「i plus one」
第二言語取得に関してクラッシェンがたてた五つの仮説の内の一つにインプット仮説がある。 インプット仮説とは、現在の(習得)能力レベルより少しレベルの高いインプットを理解することによって、言語を習得する、という仮説。
「i+1」はこのインプット仮説の説明の時に使われる用語。
「i」は学習者の能力のレベル。
クラッシェン(S.Krashen)著書 「ナチュラル・アプローチのすすめ」参照

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