こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2009年8月3日

「新しい世界への扉を開く活動」 / レポート:小学校英語の現場から

2009年8月3日
「新しい世界への扉を開く活動」
JTE(日本人英語支援者)
MPIパートナー会員
遠藤小百合
(福岡県春日市立春日野小学校JTE)
レポート:小学校英語の現場から

1)小学校に入ったきっかけ
春日市は博多より車で20分、太宰府天満宮より25分ほどの距離にあり、都市部へ通勤至便でありながら歴史や自然あふれる人口10万人強の静かな町です。2年前の春、東京より引っ越してきて間もないある日、自宅のポストに入れられた春日市報に現職の募集案内が載っていました。春日市は、これから始まる小学校外国語活動推進のため特別予算を確保し、地域の有識者をJTE(日本人英語指導者)として採用して市内公立小学校12校にひとりずつ配置する計画をいち早く進めているところでした。

 独身の頃は自分が英語を駆使して仕事を進めることにしか興味がなかったのですが、結婚し子どもが生まれてからは「人を育てる」ことにも興味を持つようになり、小学校での英語指導員をすることに大きな魅力を感じました。しかし、採用当時、私は児童に英語を教えた経験も、J-SHINE資格も持っていませんでした。

 児童に対する指導経験のない私は全てが0からのスタートでした。最初の一年は文字通り手探りで、「本当にこれで良いのか?」と自問自答の毎日でした。勤務校に「英会話たいそうDVD」と「英会話たいそうピクチャーカード」があったのですが、それをどう使っていいのかわからず、MPIのHPを見てセミナーのことを知り受講しました。小学校JTEの職に就いてからMPIを知り、J-SHINE講座を受講して児童英語教師の勉強を始めた私は、変わり種かもしれません。

2)現在の活動状況
 春日市は独自の外国語活動カリキュラムを持っています。5~6年生が年間35単位時間の活動をするほか、3~4年生は文部科学省より特別許可を得て外国語活動として年間20単位時間、1~2年生は年間12単位時間の活動をします。私は基本的に3年生から6年生の活動を担当します。活動は全てHRT(担任教師)とのTTで行います。アジェンダの進行、手を挙げた児童の指名、まごついている児童のケア、クラスコントロールなど、クラスを知り尽くしているHRTの存在は大きいです。特に、その日のトピックによってサポートが必要な児童のところにさりげなくつかれる姿には、毎回頭が下がります。

 中学年の児童は、聞いた音を恥ずかしがらずに声に出して言い、ジェスチャーを喜んでするので、「英会話たいそう」をウォーミングアップに使っています。「英会話たいそう」の1~8の各ユニットには、少なくとも一つずつ、小学生がとても気に入って使うフレーズが仕組まれているのですが、児童がものの見事に反応するので、児童心理まで考えて作られているこの教材に心底感心しつつ、大笑いしながら一緒に踊っています。

また、トピックごとに分かれている「バナナじゃなくてBanana」チャンツCDもよく使います。外来語とは何か?の定義を、このバナナチャンツCDを使うことによって再確認でき、国語の時間にあやふやだったものが、外国語活動でクリアになるということもありました。耳から聞いた音を臆することなく口にする度胸は、低中学年ならではの能力です。彼らの「音に対して偏見のない耳」に何度感動させられたか分かりません。この時期に正しい発音のインプットを惜しみなく与えてあげたいものです。

 一方、高学年では歌ったり踊ったりという活動が恥ずかしくなってきて、頭で理屈を理解出来なければ、言いたくない動きたくない、という傾向が出て来るので、今年度は「DVDでフォニックス」を導入してみました。DVDの音声と映像で示されるアルファベットの名前と音の関係という新しい世界を目の前にし、「そんなルールがあるのか!」「そんなしくみになっているのか!」と理解した児童の目がみるみる変わりました。そして、理屈を理解した彼らは、Phonics Alphabet Songをジェスチャー付きで歌い出しました。5つの母音とマジックeをDVDで見た後、「Phonicsピクチャーカード」を使って単語の早読み競争をしたときは、必死に読もうと頑張る姿が見られました。

年齢に合ったテーマで知的好奇心をくすぐり、達成感を持てるように活動を進めることが高学年指導のポイントであると確信を持った出来事でした。この「DVDでフォニックス」はHRTからの反響も大きく、もっと早くこういうのを見たかった!と口々におっしゃいます。

その他には、「高学年のための小学校英語(先生英語やろうよ!2)」もよく使います。英語ノートとリンクして使えるアクティビティーが多いことと、教材ページがコピー利用可能であることがとても便利です。アルファベットの学習にThe Keyboardのページを使ったところ、児童から「初めてAからZまで全部のキーを押せて嬉しかった!」というコメントがたくさん返ってきました。

3)今後の課題・展望
 春日野小学校勤務も3年目に入りました。ほとんどの児童が私の顔を見ると英語で挨拶をするようになりました。しかし、私が市の嘱託職員という立場でJTEができるのも、22年度までということが決まっています。特別な環境で育ったわけではなく、日本に生まれ育って公立の学校で学んで今に至る私が、英語でコミュニケーションをとる姿を具体的な模範として児童に示すことが、私の最大の仕事であり責務だと思っています。「手本、見本を見せること」が教育の原点だと私は考えているので、今後も子どもたちにこのような環境を与え続けていけることを願ってやみません。


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