こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2016年12月27日

おもてなしの英語があちこちで

2017年1月27日
おもてなしの英語があちこちで

小川隆夫
聖学院大学特任講師
J-Shineトレーナー検定委員
中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー
玉川大学教職大学院講師

レポート:小学校英語の現場から

 Youは何しに日本へ?という大人気のテレビ番組があります。最近は特集番組もありますから、きっと読者の皆さんもご覧なったことがあるでしょう。
 番組のホームページにはタイトルの下にWhy did you come to Japan? と書かれています。まったく問題のない英文ですが、困ったなと思ってしまいました。
 多くの視聴者は「日本にはどうしていらしたのですか?」という意味で、この英文は使えるなと覚えてしまうでしょう。2020年のオリンピック・パラインピックを前におもてなしの英語を勉強しようという機運が高まっている時に、 多くの人がこれをインプットして使うようになると外国のお客様に不快な思いをさせてしまうかもしれません。
 Why did you come to Japan? と、聞かれた人にとって「なぜ来たか」はとても個人的なことで大きなお世話です。見ず知らずの人に言うようなことではありません。また、この表現は「何しに来たんだよ?」とか「いったい何の理由があってきたんだよ?」に聞こえてしまいます。

 こんな時はまず、May I ask you a question? と聞いて、What brings you to Japan? あるいはWhat brought you to Japan? という表現を使い「日本に来られたきっかけは?」と聞くのがいいと思います。 もちろん番組では配慮された後で聞くのでしょうが、Why did you come to Japan? だけ覚えて使うのは危険ですね。

 実はこうした文法的に正しくても使い方が難しい英語は結構あるものです。特に「おもてなしの英語」となると誤解が生じないように気配りをしなくてはいけません。私は最近mpiの『おもてなしチャンツ』をよく利用しています。What brings you to Japan? も、もちろん出ていますが、 誰でもその一言がすぐに言えないことがありますよね。先日は「温泉でおくつろぎください。」って、英語でどういうのですかと聞かれました。 Relax in hot springs. と言うと、「えっ、それだけ」と聞かれてしまいましたが、簡単な表現で誤解を受けない言い方をたくさんインプットするのは大切だと思います。

 小学生のおもてなし教材と言えば、東京都教育委員会がオリンピック・パラリンピック教育のための独自教材『Welcome to Tokyo』を都内の小中高に配布しました。
ホームページによるとこの教材配布のねらいは
・日本・東京の文化、歴史等の理解の促進
・英語によるコミュニケーション能力の伸長
・オリンピック・パラリンピックに向けた国際理解教育の推進
ということです。小学生版Elementaryは都内の公立小学校5年生以上の全児童に配布されていますが、Life・Culture・Townの3つの分野で構成されています。

〇Life では、
①行き先を案内しよう!②給食を楽しんでもらおう!③好きなアニメについて話そう!◎1964年東京オリンピック
〇Cultureでは、
①お祭りの遊びや食べ物をすすめよう!②昔のやり方を教えよう!③落語について説明しよう! ◎パラリンピック
〇Townでは、
①観光案内をしよう!②お土産を探してあげよう!③東京の水について説明しよう!  ◎自動翻訳

 どの単元にも海外からの観光客に出会ったつもり、そして、観光客になったつもりで尋ねたり、伝えたりする工夫が随所にありDVDを活用しながら楽しい授業ができるようになっています。しかし、落語について説明しよう!とか、食べ物の呼び方を説明しよう This is called bettarazukeなどのように子どもたちが経験したことがないこと、食べたことがないものなどをどう扱っていくか、発展させていくかなど指導者の工夫が必要なところもあります。ちなみに都内のある研究会に出席した先生たちにべったらづけを食べたことあるか尋ねたところ食べたことがある先生は3分の1でした。落語にいたっては寄席に行ったことがある先生は数人でした。子どもたちどころか先生でさえ経験がないことがいっぱいあります。 文化や伝統を生き生きとコミュニケーションで、そして、おもてなしで扱うってなかなか難しいものですね。

 そして、最後に紹介するのは、JR鉄道少年団の「英語でおもてなしプロジェクト」です。JRには全国に鉄道少年団というボーイスカウトのような組織があり小学生から高校生が日々活動しています。 「英語でおもてなしプロジェクト」は3年前に始まり、年に数回ですが東京駅、京都駅、姫路駅などで外国からのお客様の案内やお世話をしています。私が教材と指導を担当していますが、駅構内のことや乗り換えホーム、到着駅のことなど彼らの知識は半端ではありません。もちろん英語は駅の案内に必要なものを練習しますが、練習してないことまでしっかり案内できるのです。京都駅ではうどんを食べたいというフィンランドのお客様をうどん専門店まで案内したグループもありました。東京駅では成田エクスプレスのホームで活動しますが、好きなことだとこんなに英語も一生懸命練習して、かつ実際に活用できるんだということを実感しました。 まさに「What one likes, one will do well. 好きこそものの上手なれ」ですね。

プロフィール

小川隆夫(おがわたかお)
聖学院大学特任講師、J-Shineトレーナー検定委員、中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー、玉川大学教職大学院講師
立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修士課程修了、英国立リーズベケット大学英語教授法修士課程修了
鳥飼玖美子氏のもとで「英語コミュニケーション教育」を学び、松香洋子氏を児童英語の師とする。埼玉県内の小中学校で33年ほど勤務し数々の英語活動の実践を発表する。
著書『先生、英語やろうよ!』 『高学年のための小学校英語』(mpi刊)は、小学校の先生方から英語活動のバイブルと呼ばれ圧倒的に支持されている。


レポート一覧に戻る