こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2016年9月30日

小学校英語の現場から

2016年9月30日
この夏は
「イングリッシュ・キャンプ」が大流行!

小川隆夫
聖学院大学特任講師
J-Shineトレーナー検定委員
中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー
玉川大学教職大学院講師

レポート:小学校英語の現場から

今年の夏は、オリンピックの閉会式とともにあっという間に終わってしまったような気がします。読者の皆様はどんな夏の思い出をつくられたでしょうか。今回のコラムはいつもと違って、私にとって最大の夏休みイベントだった「イングリッシュ・キャンプ」を紹介します。
 「イングリッシュ・キャンプ」は2011年に文部科学省が出した「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」の中の提言3で「イングリッシュ・キャンプなど、生徒が集中的に英語に触れる機会を設ける」として発表されて以来、ここ数年とみに注目されるようになりました。 最近は、民間企業、学習塾、私立学校、自治体など様々なところが始めています。

私が担当しているのは東京都荒川区のイングリッシュ・キャンプWorld Schoolです。すでに今年で13回目、私がコーディネーターとして関わって3年目になります。今年は8月18日から5日間にわたり清里高原で行われました。参加児童は6年生90名、ここに世界各国出身の外国人講師(AET)20名、 小学校教員と大学生からなる日本人英語指導者(JET)及び生活指導を担当する小学校教員と運営スタッフ約30名が4泊5日を英語で生活しました。
 レッスンは15グループに分かれて、JETとAETの2人が担当し9コマ行いました。もちろんすべてが英語です。食事の挨拶もレクリエーションも朝会もラジオ体操もすべて英語で進行します。2日目にはハイキング、4日目にはキャンプファイヤーなど、様々なイベントが準備されていましたが、 経験豊富な教員が生活指導面や安全面に細やかに配慮をしてくれていましたので、児童は自分の学校の林間学校などと同様に万全のサポート体制の中で安心して英語に浸ることができました。

話すきっかけとなる英語から

 1日目はバスで現地に向かい午後からいよいよ英語生活がスタートです。私は開講式でHow do you say ~ in English?とCan you sign here?を全員に教えることにしています。
 児童のワークブックの最後のページにはAET、 JETを問わずスタッフの誰からでもサインをもらえるページがあります。いろいろな人に英語で話すきっかけを作るためにCan you sign here?が便利なのです。 スタッフはサインを求められたら必ずいくつか英語でやりとりをしてからサインをしますので、児童は何かしら英語で話をしなければなりません。特に口が重い1日目、2日目にはこれがとても役立ちます。また、How do you say ~ in English?は、レッスン、生活のあらゆる場面で使えます。 自分でAETに直接質問できるのはとても便利です。これはレッスンが進んで話したいことが増えた時にも威力を発揮するのです。

練習中のミラクル

World Schoolでは、5日目にグループごとにパフォーマンスを発表するグランド・フィナーレがあります。レッスンが進むと児童も講師たちもそれを意識し始めます。児童の意見を集約して5分間のパフォーマンスを作り上げる担任役のJET、AETは特に真剣になります。
 実はこのパフォーマンスには「練習した英語表現を無理なく組み合わせる」「パンチライン(おち)を必ず入れる」「ステージの大きさを十分生かす」「衣装や小道具に凝らずシンプルにまとめる」などの条件があり、これらを守って構成しなければなりません。
 練習が本格化する3日目の午後から4日目になると、練習ごとに各グループが一致団結して目標に向かって頑張っている姿が誰の目にもわかるようになります。JETやAETが今までの指導の手応えを感じ始めるのもこの時期です。4日目の午後、ステージ上で行うリハーサルでは他のグループを見学できます。 これによってライバル心を少しだけあおりながら、ステージリハーサルが終了したグループには複数の担当者によって良かった点と改善点が示され、さらなる練習を重ねていくのです。
 最初の3日間は自信なさそうに小さな声で英語を話していた児童が、このリハーサルの後はステージ上で堂々と英語を話し、しかも大きなジェスチャーをつけてオーディエンスの笑いを取ることまでできるようになるのです。その変化をAETはミラクルと言いますが、児童の英語そのものが上達するというより、英語に対する抵抗感がなくなり向き合い方が変わってきたのでしょう。 もちろん本番のグランド・フィナーレではより磨きのかかった堂々としたパフォーマンスが披露されます。

キャンプの伝統

このキャンプが13年間も続いている秘密は参加児童や保護者、区民からの評価が非常に高いことと、そこには関わる先生たちの努力と意識の高さ、運営スタッフたちの支えによるものが大きいと思います。
 World Schoolに参加する先生たちは、5日間を一緒に生活しながらそのノウハウを後継者となる先生たちに見せながら伝えていきます。JETは1、2年目の若い先生を中心につのり、大学生を加え徹底した事前研修を行い、現地でも毎日1時間半のレッスンの打ち合わせをAETと英語で行うのが恒例になっています。 こうした伝統がこのキャンプを成功させているのです。

ワールド・マジック! 

4泊5日というのは小学生のキャンプとしては長いようですが、参加した児童、スタッフ、JET、AETの誰もが、3日目あたりから不思議な連帯感と雰囲気に包まれます。これはワールド・マジックと私が勝手に言っていますが、ものすごく過密なスケジュールの中で英語だけで行う生活はストレスがいっぱいのはずですが、 中盤を過ぎた頃からやることが何でも楽しくなってくるのです。児童たちが英語でも生活できると自信がつくのもこの頃です。

このWorld Schoolは私がコーディネーターとして事前講師研修から教材、教具、現地での指導まですべて担当していますが、大勢の方々の情熱と努力によって成り立っています。
 イングリッシュ・キャンプは凝縮した数日で英語とともにたくさんの収穫があります。
 できるならこうしたイングリッシュ・キャンプの体験を一人でも多くの子どもたちにさせたいなと思っているところです。

プロフィール

小川隆夫(おがわたかお)
聖学院大学特任講師、J-Shineトレーナー検定委員、中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー、玉川大学教職大学院講師
立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修士課程修了、英国立リーズベケット大学英語教授法修士課程修了
鳥飼玖美子氏のもとで「英語コミュニケーション教育」を学び、松香洋子氏を児童英語の師とする。埼玉県内の小中学校で33年ほど勤務し数々の英語活動の実践を発表する。
著書『先生、英語やろうよ!』 『高学年のための小学校英語』(mpi刊)は、小学校の先生方から英語活動のバイブルと呼ばれ圧倒的に支持されている。


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