こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2016年5月25日

小学校英語の現場から

2016年5月20日
モジュール学習のルーツを見つけた!-九州の小さな小学校で始まったことに-後編

小川隆夫
聖学院大学特任講師
J-Shineトレーナー検定委員
中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー
玉川大学教職大学院講師

レポート:小学校英語の現場から

 新学期は慌ただしい日々が続きますね。私は、春学期はいつも小学校の先生を目指す大学2年生の「生徒指導論」を担当しています。「えっ?」って驚かれるかもしれませんが、教職課程の「生徒指導論」や「教師論」は、小学校現場が長かった私にとって教師を志す若者たちに伝えたいことがいっぱいある、とてもやりがいのある授業です。
 さて、初回の授業で学生たちに「小学校時代に印象に残ったことは何?」と聞くと英語活動という答えが数名から返ってきました。それも楽しい授業だったとか。今までそう答える学生はほとんどいませんでした。「英語やったでしょ?」と聞くと、たいてい「何だかわからないけど外国人が数回来たことは覚えている。」という答えでした。 現2年生は中学年の頃が2006年前後ですから、英語活動の良い実践がどんどん増えてきた時代です。わずかでも英語活動が印象に残っているという学生がいたのは嬉しかったです。
 そして、中学校の英語教師を目指す「英語科教授法」の授業では、フォニックスを中学校1年生の時に教えてもらったという学生に出会いました。フォニックス・アルファベットから始まってサイレントEまで勉強したとか。それ以後、ずっと英語の先生を目指してきたそうです。こうしてみるとやはり大人になっても印象に残る授業や人生に 影響を与える授業があることがわかります。毎回の授業を大切にしていかなくてはと改めて思いました。

 さて、今回は、前回の続きで「九州の小さな小学校で英会話授業が始まった!」の著者、
末吉たつこさんのモジュールの授業実践から、参考になるなと思うことを紹介します。

レポート:小学校英語の現場から

英語の時間の約束事を徹底
 末吉さんは初回の授業で英語の時間の約束事を子ども達に話していました。
たとえば、3、4年生には「英語の時間のお約束」として、
 ① 先生の話をしっかり聞く。
 ② お友達の発表には拍手と一言。
 ③ 覚えた英語はどんどん使う。
5、6年生には「英語の時間の約束」として
 ① 先生の発音をしっかり聞く。
 ② 何を言っているのか想像力を働かせる。
 ③ 友達の発表には拍手とコメントを。
 ④ 「30分は英語だけ」に挑戦してみる。
 この約束では英語が上達する秘訣とともに、すべての授業にも通じるルールやマナーを伝えています。私も現役時代、初回に必ず約束事を話しました。これを日本語でしっかりと伝えておくととても効果的です。 でも、約束の数は少なくすることです。多くなるとすぐに守れなくなってしまいます。1年間ずっと生き続けることができる約束にしたいものです。

TTは担任との日頃のコミュニケーションが大切

「おとなしいクラスでもさわがしいクラスでもHRTの存在、役割は小学校という現場ではとても大きいです。クラスマネージメントしているのはHRTだなとすご~く感じます。打ち合わせの時間は短くても、ほとんどとれなくても(これ現実)、先生方とのコミュニケーションを日頃とっておくことはTTにかかせない。」

 JTE(Japanese Teacher of English)としてクラスに入った末吉さんは、担任の先生との良い関係があってこそ良い実践ができると確信しています。このコラムの読者にはALTやJTEとして活躍されている方も多いと思いますが、小学校現場ではやはり担任とのコミュニケーションによって授業が左右されてしまうことが多いものです。 今と同じように16年前も打ち合わせ時間がなかなかとれなかったようですが、日ごろの良い人間関係は良い授業に繋がります。

大きな目標
 末吉さんは週2回(30分×2)の授業を行うための大きな目標を立てました。
  1、2年生… 歌、絵本、ビデオなどを楽しむ。
  3、4年生… ゲームを中心に英語を使って楽しむ。
  5、6年生… 学んだことを発表する。
 30分という枠で構成していた授業は3学期になり20分になったそうですが、モジュールはこうした大きな目標に向かって欲張りすぎないのが成功の秘訣だと思います。そして、短い時間を有効に使うために、末吉さんが授業を展開するうえで常に意識していたことは、  子どもたちが英語を
  1. 聞き取れる(聞き取ることで授業に参加できるActivity)
  2. 言える
  3. 使える(Sentence level で自己表現)
 ようになるように心がけることでした。これからモジュール授業を考えている学校などにはヒントになりますね。

 最後にこの末吉たつこ著『九州の小さな小学校で英会話授業が始まった!』(2001, mpi)の本の中で私が一番気に入っている言葉を紹介します。
   ・何のために教えているのかということを見失わないように心がける。(教え込まない)
   ・世界に目をむけさせるキッカケづくりをしているという認識。
   ・子ども達が通訳をしてもらってではなく相手と直接言葉でコミュニケーションがとれるようにしてあげる。その時の喜びや感動の体験のために力を貸すのが私の役目。

 今回、このコラムを書くにあたって、久しぶりに末吉さんに連絡するととても喜んでくださいました。先輩の素晴らしい実践には、今でもその情熱とゆるぎない信念が感じられますし、学ぶべきところがいっぱいあります。飾らない言葉がまた素敵です。この本(MPI新書)は今では手に入りませんが、機会がありましたらぜひ読んでみてください。心が温かくなります。

 さて、次回はmpiの新教材『小学校英語SWITCH ON!』を取り上げて、モジュール英語活動について考えます。

モジュール学習のルーツを見つけた!-九州の小さな小学校で始まったことに-
前編はこちら

プロフィール

小川隆夫(おがわたかお)
聖学院大学特任講師、J-Shineトレーナー検定委員、中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー、玉川大学教職大学院講師
立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修士課程修了、英国立リーズベケット大学英語教授法修士課程修了
鳥飼玖美子氏のもとで「英語コミュニケーション教育」を学び、松香洋子氏を児童英語の師とする。埼玉県内の小中学校で33年ほど勤務し数々の英語活動の実践を発表する。
著書『先生、英語やろうよ!』 『高学年のための小学校英語』(mpi刊)は、小学校の先生方から英語活動のバイブルと呼ばれ圧倒的に支持されている。


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