こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2015年7月24日

松香洋子の私的小学校英語教育論

2015年7月24日
松香洋子の
私的小学校英語教育論
第4回 Who and Who

mpi松香フォニックス会長
松香洋子

レポート:小学校英語の現場から

今回は、誰と誰がペアになって小学校英語を担当するのがいいのか、つまり、TT(team teaching)について考えてみたいと思います。

[小学校の先生+小学校の先生]

私が東京都のある区でお手伝いをしていた時に、ある研究指定校では学級担任と音楽専科の先生が、TT をしていて、とてもいい味をだしていました。 学級担任の先生たちは、英語は得意ではないけれど明るく元気に頑張り、音楽専科の先生は英語の歌を歌う時にはピアノをひいたり、CDをかける 担当をしたり、英語の練習をさせたり、上手にやっていました。 その先生は英語がちょっとできる先生でした。
この小学校の先生+小学校の先生という組み合わせは、とても安定したペアです。同じ職場で働いているので気心が知れているし、子どもたちの ことをよく知っているからです。
今後、小学校英語の必修化にともなって英語専科教員が増えるのであれば、この理想形がもっと広範囲に実現できるのかもしれません。どのような形 の英語専科教員であるかは現場にとってはとても大切な問題で、お客さまのような顔をして、時間講師でくるのであれば現場の負担が増えるだけだ、 と率直に言われたこともありました。

[小学校の先生+中学校の英語の先生]

中学校の先生が、「英語を教えるぞ!」というスタンスではなく、小学校で教えることを心底楽しんで、小学校の学級担任の先生と呼吸をあわせること ができれば、最強のペアです。東京都のある区では、中学校の先生が率先して小学校へ出向いていましたが、その成功の秘密はやはり、中学校の英語 教員に自分から小学校へ行きたいという意志があって、小学校英語について理解をしようとしていたことでした。
中学校の英語の先生なら誰でもいい、というわけではないところが難しい点です。例えば韓国では、中学校の英語の免許を持っている人材を多数、小学 校へ導入した時期がありましたが、どうしても教え込むという側面が強くでて、子どもたちから大ブーイングがおきて、早々に挫折したと聞いたことが あります。

[小学校の先生+外国人ALT]

もっともよくあるパターンであり、もっとも望まれているペアでしょう。 子どもが好きで、教えるのが好きな楽しい外国人がきてくれたら子どもたちは最高に嬉しくなってしまいます。
しかし、一方では問題もたくさんあります。1つの大きな問題は、ALTの質があまりにもバラバラであることと、もう1つは派遣法上の問題です。
ALTの質については、研修の問題もあります。それ以前の問題もあります。
でも必修化にそなえて、これからさらに多くの外国人ALTを雇用するというのが文科省の方針でもあるので、徐々によい方向に向かうことを願うばかりです。

そもそも派遣法というのは、教育という分野に特化して整備された法律ではなく、ごく一般的に派遣された人を守るためにある法律と理解しています。 つまり、派遣された人が、派遣された先で、契約内容とは違う仕事をさせられたり、急に仕事の内容が変更されたり、個人的に仕事を依頼されたり、 その場で打ち合わせが必要だったりしてはダメ、という法律です。それを一時的とはいえ、一部地域とはいえ、ALTの派遣に当てはめてしまったと いう事実があり、教育委員会と派遣会社が雇用契約をしているため、学校側とALTは打ち合わせをしてはいけない、などという信じられないようなこと が起きてしまった例もあるようです。また、教育委員会が直接雇用という場合もありますが、いずれにしても、外国人と日本人がよいコミュニケーション を成立させているという例をみせることができるようになることが大切です。

[小学校の先生+民間人]

これから必修化にむけて、さらに多くの民間人が小学校へ行って支援をすべきであるというのが私の意見です。そのために、J-SHINE(NPO小学校英語指導者 認定協会)の仕事を立ち上げの時からお手伝いしてきました。
もちろん、この方法にもたくさんの問題があります。一番大きいのは、免許法のことです。そもそも義務教育の場には、教員免許を持っていない人は入って はいけないわけです。それは当然なので、なんらかの法律上の改訂が必要です。
次の問題は、小学校担任とのやり方の確立です。英語ができる、児童英語の経験がたくさんある民間人が小学校へ行った場合、「おまかせ」という事態が おきてしまいます。これはぜひ避けなくてはなりません。そのような事態がおきると学級担任の力量はまったく上がっていきませんから、全体からみれば 民間人が入っていったことがプラスに作用しません。
私が思う最低限のルールは、
1.まずは、学級担任が英語で挨拶をすることから英語活動は始まる。
2.次に学級先生が支援者にあいさつをするように促す。
3.その時に、軽いやりとりがある。
4.支援者は、活動の流れは学級担任にまかせ、褒めたり、見本を見せたりすることに徹する。
5.TTの最大の目的は、学級担任と支援者が楽しく英語でコミュニケーションをしている姿を子どもに見せることと認識する。
6.その日のトピックの導入時には、学級担任と支援者がそのトピックについて軽く、楽しく、やりとりをみせる。
7.その活動に必要な単語や表現を練習する時には、支援者がリード、子どもが繰り返す、学級担任がもう一度同じ単語や表現をリード、子どもが繰り返すというのも素晴らしい練習方法である。
8.援者は子どもを褒めながら、活動が体験的に、スムーズにできるように支援する。
なお、7については、姫路市でこの方法を実践しているGATEという小学校英語の支援グループの長谷川和代さんから教えてもらったことです。とてもよい ことだと思います。こどもたちの練習量も確保できるし、小学校の先生たちもこの方法によって、どんどん英語が上手になるそうです。

誰と誰が小学校英語を指導すると、どのような化学変化をおこすことができるのか、今後も注意深く見守り、育てて行かなくてならない事です。でも結局の ところは人と人との協力ですから、人間関係が一番大切なことはいうまでもありません。それこそ、コミュニケーションそのものですね。
また、英語を専門としない小学校の学級担任の負担が増えるということになるのは確かですが、学級担任も地球市民の1人としてこれから何十年も行きて いかなくてはならないのですから、「英語ぐらいできて当たり前!」と考えて前向きにとらえてもらいたいものです。

松香洋子プロフィール

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