こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2015年6月25日

松香洋子の私的小学校英語教育論

2015年6月25日
松香洋子の
私的小学校英語教育論
第3回 How?

mpi松香フォニックス会長
松香洋子

レポート:小学校英語の現場から

今回はhow to startということを考えてみたいと思います。

人間は誰でも、“初めて”とか、「さ~、これからやるぞ」という時にはドキドキしたり、張り切ったりするものです。その時に、指導者側が何を提供するかはとても大切なことです。児童も生徒も1日に5時間も6時間も授業を受けます。
そのような中で、「外国語活動、英語の授業ではいったい何をするのか?」
その後を占う大切な部分です。最初のドキドキ感を大切にしましょう。

私の孫の海君は、オーストラリアで今年の1月から7年生になりましたが、この学校の7年生は日本語が必修です。そこで、海君は先生の助手をしているそうです。暇な時には、日本からもっていった漢字ドリルをやっているそうです。
オーストラリアの日本語の授業の始めは、いつも自己紹介です。名前、年齢、兄弟姉妹、住んでいるところ、好きなものなどたいてい5行くらいです。それを全員が言えるようにします。 「こんにちは。私の名前は、ジョンです。私は12歳です。私は弟が2人います。グリーンパークに住んでいます。私は犬が大好きです。」とこんな調子です。これをまったく文字の介入なしで、覚えます。
オーストラリアでは、どの外国語を教えるかは学校ごとに選択しますが、どの言語でもこの自己紹介はやっているようで、子どもが何人もいる家庭では、いろいろな言葉が朝食の時間から聞こえてくると保護者の方々がよく言っています。

自己紹介が終わってからの日本語の授業は、ものすごく実用的なものです。
日本に1週間、ホームステイに行くことを目標におき、まずは自分の名前がカタカナで書けるようになることからはじまり、挨拶、食事、交通機関の使い方、学校での生活等、これ以上ないほど具体的に教えます。 今オーストラリアでは、ちょっとした日本旅行ブームがおきているそうですが、学校で勉強している内容が役立つと思うことは、子どもにとっていいことに違いありません。

そんなわけで孫の海君は、オーストラリアに住んでいるのですが、5年生、6年生の時には、夏休み、冬休みに日本の公立小学校へ体験入学として数週間ずつ通学させてもらいました。
そこには外国語活動というのがあって、海君は、フイリピン人の先生の助手をしていました。暇な時は英語の本を読んでいたそうです。そこから伝わってくる外国語活動の内容は、Hi, friends!の内容に沿ったもので、スポーツ、ペット、食べ物、教科などを題材に活動をしていたそうです。 ここに日本の外国語活動の特色が現れています。子どもたちが将来、中学校で学ぶ中学校英語の一部を、音声的に体験するための活動になっています。“教養のための英語”の伝統が、引き継がれています。

もう1つ思い出すことは、オランダで見た中1の授業です。オランダでは、小学校では軽く2年間ほど英語をやっていますが、子どもたちの英語を聞き取るスキルは相当なものがあります。 私が見学した中1の先生は、前年度は高3を指導していたそうで(たいていの先生は中、高を担当)、しばらくぶりに中1におりてきたら、生徒があまりに子どもなので、戸惑っていたのです。
「早く大きくなれ」「大人になれ!」というメッセージが満載の授業でした。まずは教科書をあけて、イラストや写真についてコメントをし、テーマについて考えを述べて、こんな簡単な内容はお互い気楽にやろうな、みたいな雰囲気で、しょっちゅう脱線していました。 自分の体験を語ったり、ジョークを言ったりも、全部英語です。「あとは自分で勉強しておけよ」という調子で終わります。
「な~るほど」、と私は思いました。ヨーロッパ人の批判精神、自分の考えを述べるという習慣はこうやって、外国語授業のスタート時点からも育まれるのだと思いました。

オーストラリアと日本とオランダ、まったく違う国ですから、外国語の授業も違います。しかし今はグローバル時代。どこに接点があるかを探る必要もあります。
英語圏であるオーストラリアでは、英語を教える必要がないので外国語はもっぱら実用主義。
様々な外国語が毎日のように聞こえてくる環境があり、その中でも英語が軽くできるぐらいは当たり前、のオランダでは、オランダ人の強み(合理的、先進的、冒険好き)を英語でも表現できるようにチャレンジしています。
そして、日本。明治時代から続く教養主義の英語教育の匂いは強く、英語そのものの学習も言語間の距離があるため、困難もあります。
それではどうしたらよいのでしょうか。日本では実用主義を掲げるだけでは、幼稚、あさはかとすぐに批判されてしまいます。そこでできる解決策としては、日本がこれまで教養主義で大切に守ってきた文化、習慣、理念の良さを英語でも表現できるような実用主義になるのが良いのではないでしょうか?
今、大きく変わろうとしている英語教育ですが、アクティブラーニングのかけ声のもと、世界の人々のすばらしさを学びながら、きちんと自己主張をする。そこらへんが落としどころだろうと考えています。

まだまだ張り切っている1学期。現場の先生方の奮闘をお祈りしています。

松香洋子プロフィール

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