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2012年12月12日

日本の子ども英語の未来 国際人を育てる 児童英語指導法 『mpi9年間カリキュラム』

mpi会長 松香洋子

レポート:小学校英語の現場から

mpiの英語教室では、長期的な視野に立って、小学1年生から中学3年生までを指導する一貫カリキュラムを実施しています。このカリキュラムでは、子どもの成長に応じて“年齢に適した”指導を行っているのが特長で、最終的には「英語の話せる15歳」をゴールとして設定しています。
なぜ15歳なのか? 昔でいうと、「元服」という概念がありますが、私はいつも、15歳になったら、子ども扱いをしないということが大切だと考えてきました。15歳というと、身体も大きくなり、個性を持ち、知識もついて自分の考えをまとめられるようになる年齢です。
その年齢になった時、出来る範囲の英語を使って、世界のいろいろな国の人とコミュニケーションを取れるようになること、その時、自分のことや日本について発信できるようになることが、英語を学ぶ本来の目的となって欲しい、mpiは30余年そのような理念を持ち、子どもの英語について研究と実践を行ってきました。
そうして確立された児童英語指導法『mpi9年間カリキュラム』で特に大事にしている12個のポイントに沿って、日本の子ども英語の未来について改めて提言したいと思います。

レポート:小学校英語の現場から

①コミュニケーションのために英語を教える
私が高校で英語教師をしていた頃、赴任先の学校に海外からお客様が訪れたことがありました。そこで、英語の成績が特に優秀な生徒に声を掛け、「お客様を校内に案内してあげてね」とお願いしたら、「そんなことできません!どのように英語を話せばいいのか分かりません」と拒否されてしまいました。 これは非常にショックでした。あれほど英語の成績が優秀でも、「使えない」ということがあるのだと思いました。
一方、社交的で明るく、海外のお客様にもなんとかボディランゲージなどでコミュニケーションを図り、“通じ合える”生徒は、なぜか授業では英語ができない、指導要領に基づいた試験ではよい成績が取れない、ということもありました。
この時から私は、英語を指導するのであれば、「使える英語」でなければいけないと感じ始めました。以来、mpiの英語教室では、英語のみならず、ジェスチャーや発表をする姿勢や人の話を聞くマナーなど、異文化交流に必要とされる要素を総合的に指導するようにしています。

②トップダウン方式で教える
英語は、日本語のように、名詞だけ覚えても会話が成り立たない、いわゆる“文章語”です。
たとえば、「できるよ」と言いたいとき、“can”だけで、英語を話すことはできず、“I can do it”と言う必要があります。
『From Head to Toe』という絵本があります。「君はこんなことできる?」と動物たちが様々なジェスチャーを男の子に見せていくお話です。左ページで“Can you do it? ”、右ページで“I can do it”と、動物と男の子の問答が繰り返されます。絵本のページをめくりながら、何度も繰り返される問答を聞いていくうちに、子どもは、“I can do it”のitは何なのか?ということを教えなくとも、英語には“I can do it”というフレーズがあり、日本語でいう「できる」といったような意味を指すフレーズなのだな、ということを察知します。
単語一つ一つの意味が分かるのは来週かもしれないし、来年かもしれない。だけれども、全ての意味を飲み込める力を持っているのが子どもです。この点を信じることが大切です。
物事を、脈略もなくまるごと覚えることが得意なのも子どもの特性です。このまるごとというのが「トップダウン方式」です。子どもの特性を十分に生かして指導していくことは、英語を効果的に身につけさせる秘訣です。

③積み上げ方式でなくスパイラルに教える
以前高校で教師をしているとき、こんなことを言った生徒がいました。「中学の授業で“不定詞”を習ったとき、ちょうど盲腸で入院していたので、それ以降、不定詞を使った英語が全く分からなくなった」
言葉をものにするには、こんなことは言っていられません。過去形を習っていないからといって、すべて現在形で話すなどということは不可能です。単元ごとに習うことが決まっていて、一度その単元が終わってしまえば、以後一切それを使わずに学ぶ、といったような学習法では言語は身につきません。
どのようなことを学ぶ際にも、何度も“過去形”や“不定詞”、“現在完了”、が登場するのが言語ですので、1度やったら終わり、ではなく繰り返し学んで行く方が効率的です。繰り返しの際は、全く同じように指導するのではなく、違う側面から取り入れていくことで、子どもたちは飽きずに楽しく学んでいくことが可能です。

④英語は英語で教える
たとえ、英語教室という人工的な場所であっても、そこを小さな英語の世界にすることが大切です。 先生が英語で話しかけることで、子どもたちは英語が「コミュニケーションのツール」であることを体感することができます。
また、子どもたち一人ひとりにも、英語で英語を「学ぶ覚悟」を持ってもらい、それを習慣化させることも大事なことの一つです。 どうしても伝えないといけないときは、ボディランゲージを使うなどして、英語だけの世界を作ってあげるようにすると、子どもはなんとかその中で生きていこうとするものです。
もちろん、指導者の側にも工夫が欠かせません。声のトーンを変えたり、絵を描いたり、実際にやってみせたりします。子ども同士もどうにか英語だけを使って話すように指導することで、子どもは、子どもの波長の中で多くをつかみとることができます。最初は嫌がる子どもももちろんいますが、子どもというのは環境を作ってあげると、へこたれないでどうにか頑張って行くということがよく分かります。

⑤インプットを重視する
ある言語と2000時間くらい接触すると、その言語の基本をマスターすることができるという説がありますが、圧倒的に英語に接する機会が少ない日本では、できる限りたくさんの英語の音を聴いたり、英語を読んだりすることが必要です。
英語で発話したり、文章を書いたりするなどの“アウトプット”できる量というのは、英語を聞いたり読んだり、といったインプットされた量よりも必然的に少なくなりますから、インプットが多ければ多いほど、アウトプットできる力もつくということになります。
mpiではCDやDVDを使って、自宅でも音声インプットの学習に取り組むよう指導しています。
また、年齢に適したストーリーをたくさん読むことで、目からのインプット量も増やしていきます。

⑥単語ではなくチャンクでインプットする
前述もしましたが、英語は「文章語」です。
日本語のように、単語のみを覚えて、「ジュース、飲む?」“Juice, drink?”と言っても、英語らしい表現にはなりません。しかしこれをチャンク(かたまり)で覚えておけば、“Do you want to drink juice?”を“Do you want to drink milk?”などと入れ替えて使うことができるようになります。
子どもはチャンクで覚えることが得意ですので、大人が思っている以上にあっという間に身につけていくことができます。英語を単語ではなくチャンクで覚えるのは、子どもの特性からも英語という言語からも大事なことです。

⑦身体性を重視する
私たちは、しぐさやアイコンタクトなどの身体的コミュニケーションから多くの情報を得ていると言われています。コミュニケーションの方法というのは、なにも言葉を使ったものだけではなく、非言語で行えることもたくさんあります。この非言語コミュニケーションも、子どもが得意なものの一つです。
完璧な英語が使えなくても、どうにか伝えたい!という積極性を持って、全身で表現することは、異文化コミュニケーションには非常に重要なことです。
ご存じのとおり、文化が違えばジェスチャーなどの非言語コミュニケーションの形も変わってきますが(日本にはない非言語コミュニケーションで代表的なものといえば「挨拶の時に交わされるキスやハグ」がありますね)、違う文化に行ったらその国のジェスチャーを受け入れる、といったようなマナー・心の広さも、国際人として必要なことです。

⑧発表教育を重視する
一般的に、日本人は欧米人に比べてシャイであり、また、人前で堂々と話すことやスピーチをするのが苦手だと思われています。ですが実は、欧米の子どもも小さい頃はみんなシャイだということを、私はアメリカ滞在の際に知りました。それではなぜ、あのようにスピーチが得意な大人がたくさんいるのか、それは、アメリカでは教育現場をはじめとする日常のあらゆる場面の中に、人前で話す訓練をする機会が圧倒的に多く設けられているからです。
アメリカの学校教育は、講義を一方的に受け取るスタイルではなく、先生と生徒がお互いにやり取りをする中で学んでいくスタイルです。いかに積極的に発信したかによって、自分自身得られるものが変わってきます。
日本でも同じように、人前で発表する機会を多く与えることで、スピーチなど自分から発信することが得意な子どもに育ちます。また発信することと同じくらい大切なことは、人の話を聞く態度の育成です。人の話を聞いたら、必ずほめる、感想を言う、質問をする、といったことを習慣化させるのもmpiの9年間カリキュラムの中で実施している取り組みです。

⑨自分の意見を言えるようにする
mpiでは常に、子どもたちに“What do you think? ”と意見を聞くことを大切にしています。
例えば絵本を1冊読んだ後に、どの場面が好きだったか、主人公についてどう思うかなど、些細なことから尋ねるようにしていると、子どもたちは、「意見を言う」のは当たり前のことだと思い始めます。これも、小さい時からのトレーニングで伸ばしていくことが可能です。
mpi9年間カリキュラムの集大成である、中学3年生になる頃には、賛否両論もある問題を取り上げて、意見を述べることもできるようになるなど、その成果を大いに実感することができる子どももたくさんいます。

⑩自分から手をあげて発言させる
国際人として世界で活躍するには、「自分から発言する」という姿勢が不可欠です。
日本には、礼儀正しく順番に、自分が指名されることを重んじる文化があります。このようなマナーも素晴らしいものですが、英語で発言していく際には通用しないこともあります。
どんな些細な質問でも積極的に手を挙げてたづねたり、自分が思っていることは躊躇することなく発言するのが英語圏に根付いた文化です。
小学校の高学年になると、なかなか手を挙げにくくなる子もいますが、mpiでは、積極的に手を挙げなくてはならない活動に日常的に取り組ませるようにすることで、国際的なマナーを育てています

⑪「自分を語ろう」から「日本のことを発信しよう」へ
英語を使って世界中の人とコミュニケーションを取る際、まずは自己紹介から始まることが多いでしょう。そうして自分の紹介が終わったら、ぜひ日本を英語で紹介できる人に育ってほしいと思います。
日本のことを紹介する際、次のようなことを言う子どもがいました。“Japan is a small country with many people. It rains all the time.”確かに間違ってはいませんが、日本という国を紹介する際、もっと他にたくさんの素晴らしい点があるはずです。ぜひそれを、英語で紹介できるようになってもらいたいと思います。
そのためには日本のことを深く知ることも大切です。日本のことを知らない日本人では真の国際人とは言えません。mpiでは、発信の方法にも工夫を凝らせることができるよう、テキストや雑誌、インターネットを利用して、スピーチの題材を集め、パワーポイントを使って発表をする練習なども行っています。そうして、誰にでもわかり易い方法で、ぜひ日本ことを発信できる15歳に育ってほしいと思います。

⑫ユーモアを大切に
最後に、以上のことを踏まえて、ではどうすればいいのか?最大のポイントであるユーモアについてお話します。
ユーモアはコミュニケーションの潤滑油になることが大いにあります。例えばアメリカでは、何か面白いことを発して、それに対して相手がどのように返してくるかを楽しむ文化があります。
アメリカ滞在中、ある飛行機トラブルに遭遇したことがありました。空港にたちこめた濃い霧のため、乗客は寒い中、出発まで何時間も待たされるという目に遭いました。そんな中、彼らがとった行動とは・・・、1人ずつ順番に立っていき、そこにいる人たちのことを笑わせる‥・、といったことをゲームのようにして楽しんでいました。
辛い中にもユーモアによって救われることがたくさんある、とその時私は芯から感じました。英語を学習する際には、ぜひこの「ユーモア」を取り入れて行って欲しいと思います。
“I have a book to read”なんて、当たり前のことを学んでもつまらないですよね。“I have a book to eat”とか、“I have a book to drink”なんてことを言って生徒たちを笑わせられたら、きっと学習効果は上がるはずです。
ユーモアの心を育て、ユーモアで乗り切る。楽しく話せればなんとかなる!
そんな風に、日本の子どもたちが、英語を楽しむようになることが、9年間カリキュラム、そしてmpiの願いです。

☆ mpiイングリッシュスクール 9年間カリキュラム全体像はこちらから

☆ 児童英語が日本を変える! 松香洋子著 『子どもと英語-増補改訂版』はこちらから


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