学習者側からみれば「書くけれど、書くことで終わらない」、指導者側からいうと、
「書かせるけれど、書かせることで終わらせない」という英作文学習について
考えてみたいと思います。英語を書かせることが、書かせることで終わらずに、
書いたことが自分を表現することに役立ち、いざという時には、ライティングの試験にも、オーラルな面接試験にも役立つにはどうしたらよいのでしょうか。
名誉会長
松香洋子
白紙を渡されたら、書けるのか?
英作文をする、英語を書くという学習をしたら、究極の目的は白紙を渡されたら、さらさらと自分の考えや意見を英語で書けることです。英作文の学習をする時には、例文や見本文があり、必要な単語例があるのですが、人生で必要なのは、「白紙に英語が書ける」ということです。白紙に自分の考えや意見を英語で書く時には、通じる英語で、わかりやすい構成で書かれていて、更にあまり間違いがないのが理想的です。
この理想に向かって何をすればよいのか?
1. あるトピックについて自分が言いたいことを瞬時にまとめるスキルを持つ。
2. あるトピックを語るのに必要な英語を覚える。
3. 何も見ないで書けるように英文をおぼえる。
この3つに尽きるのではないでしょうか?
上記3つができるようになるには、日本人の学習者には、メンタルトレーニングが必要なのだという結論にたどり着きました。それがTAGAKIという教材の考え方の柱です。
TAGAKIのメンタルトレーニングとは、
● TAGAKI 10自分の気持ちを即断即決する。
● TAGAKI 20 1か2か、肯定か否定か、はっきり決める。
● TAGAKI 30相手に伝わる構成を身に付ける最後に賛成か反対かを表明する。
● TAGAKI 40自分の創造性をアピールする。
● TAGAKI 50自分の意見を述べ、「おち」も自分で考える。
このような段階的なトレーニングは、英語で自分を表現できるようになるためにはMUSTです。
そして白紙を渡された時に、さらさらと自分の言いたいことが英語で書けるようになるには、書いたことを暗記するという経験が欠かせないと思います。
そこでTAGAKI10では、
1. 短い文を3つ覚えることから始める。
2. その3文の中には、自分が言いたいことが含まれている。
3. 英語的に正しい3文を覚える。
を経験します。
簡単そうに見えますが、TAGAKI学習初期から、必ず文という単位で表現する癖を付け、名詞を限定するa、the、単数、複数等、必要なことを自然にインプットし、更に文法事項は慣用表現の中でまとめて正しくインプットします。英語と日本語は違った側面を持つ言語である以上、日本人にはコントロールしにくい文法事項も含んだ、 正しい例文を暗記することで英語そのものを学習していきます。
書いたことを話せるようになるには、意外かもしれませんが、暗記が絶対条件だと思います。何を暗記させるかということですが、大切なのは自分の意見、意志、想いが反映された内容を暗記することです。そうすれば、いざという時に、そのトピックについて話すことができる自分に驚くでしょう。
残念ながら、昨今の子どもは暗記が苦手になってきていると思います。すっかり情報社会になり、情報はちまたに溢れ、スマートフォン等を利用して自分から情報をとりにいくことも瞬時にできる時代になりました。そうなると子どもは、「覚えておく」という面倒なことをやらなくなっていると感じます。ですが英語そのものを知るために、覚えることが絶対に必要です。そのためには以下の3点がカギになるでしょう。
1. 書いたものを見ないで発表することを習慣化する。書いたものを見ながらの発表は
「読み上げ」にすぎない。
2. 人に伝える時には当然ながら、顔の表情、目線、ジェスチャーなどを大切にする。
3. 誰かの発表に対して、即座にリアクションができるようにする。これができたら最高。
添削をどうするのか?
英作文をさせる、学習者の自由発想を大切にするのはいいけれど、添削はいつ、どのようにすればよいのか、という問題が必ず浮上してきます。私が今回、TAGAKIでチャレンジしたのは、「添削しない英作文の学習法」です。
どのように添削を最小限でできる教材を開発したかは以下の通りです。
1. 入れ替え単語や、入れ替えフレーズの見本に工夫 をこらし、間違いのない英文が書けるようにした。
2. 書き写していれば、間違いがでないように見本文を提示している。それぞれの段階で、書き写しをするだけで英作文の極意がつかめるようにしてある。
3. 自分が書きたいことを書くことは奨励しているが、それができる箇所を限定することにより、
全文に影響しないように構成している。
それでは、本当に学習者が言いたいことが言えるようにならないという反論もあるかもしれませんが、何事にも段階を経て取り組むことが必要です。急に手紙を書かせたり、日記を書かせたり、スピーチを書かせたりする指導者を時々見かけます。少しだけ教えて、あとは自由に書かせる、というのは、添削の仕事ばかりが多くなります。しかも添削の効果は、学習者の自覚によるところが多く、かなり限定的といわざるを得ません。そこでTAGAKIでは、自由に表現できる範囲を限定し、間違えない英作文という成功体験をさせることでモチベーションを持続させ、さらに上へ、上へと登らせることを目指しました。
英文法の指導はどうすればよいのか?
英文法というのは、品詞別ではなく、文の中で自然 に取り扱っていくことが正しいと思います。つまり、慣用表現(collocation)をたくさん学んでいくということです。必要な慣用表現を学ぶことが何より大切なのですが、そのようなやり方では必要な文法事項がカバーできないという議論もおきるでしょう。そのような議論は本末転倒だといわざるをえません。文法を教える時に気を付けたいことは以下の通りです。
1. 3単現のSとか受動態といった文法用語を覚えさせるということではなく、それをいかにたくさん練習させて身につくようにさせるということ。
2. 自動車免許を取るために教習所に通うことに
なぞらえると、「英文法」は「法規」を学ぶことに似ている。法規を無視すると安全運転はできないが、法規を暗記して試験に受かるだけでは、安全運転はできない。実技が必要。実際に運転していく中で法規は実践される。
3. 成功体験を通して、文法を学んでいくことが大切。文法学習は間違えたらXがつくという体験でなく、書いたら文法が間違っていなかった、話してみたら通じた、という成功体験を通して学ばせていきたい。
英作文指導の望ましいプロセスは?
TAGAKIの学習プロセスは、「考える→書く→伝える」です。
自分の考え、意見、感情について考え、自分で自分の意見を引き出して書いて、そこで 終わらず、全文を暗記して伝える、ということです。そのために、TAGAKI 10で、はじめに負荷のすくない3つの短文を書いて、おぼえて、伝えることから始めます。そしてTAGAKI 20、30とだんだんに文が長くなり、構成も大事になり、徐々に負荷をかけています。この負荷をかけるという点ですが、なるべく楽しく負荷をかけるために様々なトピックを用意しながらも、30回の練習を課したのがTAGAKIです。そのくらいの回数を同じレベルで体験しないと身につくべきことも身に付かないと思います。
これからの英作文指導者に望むことは?
指導者には以下の覚悟を持ってほしいです。
1. 学習者の発想を大切にするには、指導者は一歩下がって、学習者が持っているものをよく観察し、引き出す。
2. 指導者ではなく、「支援者」であることに徹する。TAGAKIはポルダリング競技のようなもので、励ましたり、声かけをしたりはできるけど、一緒には登れないと定義しています。
3. 「教えない」「添削しない」「評価しない」となると、いったい指導者の仕事はなにか、となってしまいます。「教えること」「添削すること」「評価をすること=点数をつける」は、 Al先生が全部できることかもしれません。人間先生は、Al先生ができないこと をしていくという覚悟を持って今後の支援にあたる必要があります。つまり、学習者の持っているもの を引き出し、1悩みにも付きあい、成功体験に結び付けるということではないでしょうか。
最後に
今回、このような考えにいたったのは、TAGAKIの開発のかなり初期段階で、スタッフの1人が、「それではこのTAGAKI10、20、30、40、50を全部やり終えて、 白紙を出されたら、さらさらと英語が書けるの ですね」と言ったのがきっかけでした。 実にまともな意見だと思った私は、この命題に取り組みました。確かに、英作文をしたこと、たくさん書いたことが大切ではなく、もっと大切なのはその学習を通して得たスキルが人生において生きるということです。
もう一つ刺激を受けたのは、関西のH氏がいつも言っている「見ないで発表」という表現です。mpiでは、「見ないで発表」ということは創立以来ずっと励行してきましたが、「見ないで発表」という、わかりやすい、そのままの表現を子ども達にも徹底し、先生達にも守ってもらうという覚悟が長谷川さんから伝わってきます。「見ないで発表」実にいい言葉ですね。日本の教育にはまさに必要なことです。
===================
書けば書くほどうまくなる!TAGAKIシリーズの特別サイトはこちら