2020年2月
教育事業部 学校教育課 近藤理恵子
mpi松香フォニックスは題記のJICAプロジェクトへ参画し、ウズベキスタンが抱えている以下の4つの課題➀教員不足 ➁教員の能力不足 ➂教材不足 ④民間教育サービスの地方格差 を解決すべく、2020年1月9日~15日の期間で現地大学生に日本の小学校英語教授法の研修を行い、首都タシケントの小学校2校において小学校1、2年生を対象に放課後授業を実施した。使用教材はフォニックスを活用した4技能教材「小学校英語SWITCH ON!(※)」。児童の英語力だけではなく、ファシリテーターの指導力向上を図ることも目的とする。また、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、2030年までに達成すべき17のゴールのうちゴール4「質の高い教育をみんなに」、ゴール10「人や国の不平等をなくそう」、ゴール8「働きがいも経済成長も」についても支援する方向で現地スタッフ、その他関係者と協力しなら進めていく。
掲げるスローガンはSDGsの「誰一人取り残さない」"No one is left behind!" と同じとする。
1. 現地の大学生を研修
今回の訪問の目的は子どもたちの英語力向上だけでなく、現地の大学生をファシリテーターとして育成することもあるので、まずは大学生の研修を実施した。
研修は2回。参加者はウズベキスタンの大学生約10数名。初回は1月~3月までのスケジュールと小学校英語 SWITCH ON!(mpi刊)のコンテンツ説明。実際に使用する動画を見せながら実施。最後にデモ授業をした。大学生は大変意欲的で優秀であった。声もよく出ていて、英語の発音や理解もよかった。イスラム教文化を配慮し、男女で組み合わさったペア―活動は避けるべきとのこと。男女で手をつないだり、肌を触れ合ったりするようなアイスブレイキングはできない。今回アイスブレイキングに"Up-down Catch"ゲームを企画したが、その際、男女別のグループ分けをした。英会話たいそう(mpi刊)の動画にはスポーツウエアを着た女性が体全体を使ってフレーズに合わせて体を動かす内容が含まれているが、同じ動作を強要しないように現地スタッフから注意を受けた。実際には、みんなで楽しそうに踊っていたので安心した。フォニックスの知識はあったようだが、実際に声出しをした際、ジングルや有声音、無声音など、できていない学生がほとんどだった。
2回目の研修自体はスムーズに進んだが、インターネットの接続に時間がかかった。「授業案に沿って、授業案通りに授業をする」ということをうまく伝えるのに苦労した。「教える」のではなく「ファシリテイトする」という意味の理解が難しいようであった。グループごとにロールプレイを実施し、全員が一回ずつやってみることができた。最後に一人ボランティアとして出てきた大学生が最初から操作を含めデモ授業を披露した。フィードバックの際、「よかった点(笑顔)(声のボリューム)(ジェスチャーの活用)(意欲)」をあげ、改善点は「ストーリーの内容理解をさせるのではなく、一緒にお話を楽しむこと、単語の意味を教え込むのではなく、だんだんと理解していくよう繰り返すこと」など上げた。その後、学生からの質疑では「ウズベク語を使っていいのか」「わからない単語があった時は教えていいのか」など、日本で研修をしたときによく出る質問と同じであったことに驚いた。日本での研修と同じように、「大切なインプットなので、なるべく英語だけで進めること」「わからない単語をすぐに教えるのではなく、児童が自ら理解できるまで繰り返し見て聞いて練習することが大切、100%わからせることが指導者の役割ではなく、80%自分の力でわかるようにモチベーションを上げることがファシリテーター役割」と伝えた。
2. 在日本大使館表敬訪問とウズベキスタン国民教育省との会談
1月10日(金)には在日本大使館を表敬訪問した。DK(デジタル・ナレッジ)より本プロジェクトの説明から始まり、スケジュール確認と各社より実証実験の説明を行った。プロジェクト立案者より課題と解決案の提示があった。
ウズベキスタンの課題として、学力を図るデータが国として確立していない(教育省にデータがない)ため、学力モニタリングシステムの構築が必要であり、学校外の学力調査機関が必要。そのためには政府の理解と協力が必要となる。在日本大使館での表敬訪問の際、ウズベキスタンの現状を知り、この国が日本に求めているものは「教育による国の再生」であることがわかった。費用面で日本の援助が必要と痛感した。今後、国レベルで国全体の教育レベルを上げることが望ましい。他国と同様にウズベキスタンも急激な人口増加に伴い、幼児教育機関の不足、大学の不足、職場の不足が起こっていて、良い人材は海外へ出てしまい、戻ってこない状態が続いている。
同日にウズベキスタン国民教育省(初等・中等教育担当 CICT)トップと会談する機会があった。
基本は国の学力の底上げであるが、ネット環境を整え、国全体に平等に教育的機会均等を目指している。「小学校英語SWITCH ON!®」と「英会たいそう1」を実際に見ていただいた時の会場の雰囲気は一変して明るいものになり、誰もが楽しんで笑顔になった瞬間であった。JICAからのコメントで、「我々日本人でもこのような教育は最先端です」という内容が出た。竹村社長から「会社概要」「カンボジアでの研修実践」「日本全国での「小学校英語SWITCH ON!®使用内容」「mpiの教材説明」「幼児から大学生まで対象の教育を考えていること」など幅広く伝えたことで深くご理解いただいたと思う。
3. 実践授業① (121小学校にて)
研修を受けた大学生の放課後授業をサポートを2つの公立小学校にて行った。まずは121小学校。ウズベキスタンでは小学校の名前が数字であることが大変興味深い。
予定では13日を初日として3日間実践授業をするはずであったが、初日に担任の先生が全員帰宅をさせてしまい、初回は実施できなというトラブル発生。したがって14日から二日間実施した。当初32人のクラスを2クラス16名ずつに分けて実施するはずであったが、14日に集まったのは60名。しかも、2クラスに分けず1クラスで1回実施。大人数だったので心配したが、児童は落ち着いていておとなしくしっかり受けていた。
121小学校は、今回のプロジェクトのモデル校であり、インターネット接続に関しては問題がなく、wi-fiも問題が無い。モニター付きの教室なので、画面が小さいことが心配されたが、授業に支障はなかった。15日の2回目も40名以上の参加であったが、特に問題はなく、研修を受けた大学生がファシリテーターの役割を担い、二人だけでしっかり進行ができていた。
4. 実践授業② (128小学校にて)
一方、128小学校では学校自体のネットワーク環境が悪く、準備に手間がかかった。この学校はプロジェクトのモデル校ではないが、校長先生自ら手を挙げ、実践校として新しいことに挑戦するためにこのプロジェクトに参加をした経緯がある。研修(1/9, 1/11実施)もこの学校を使用した。
初日に初めてSWITCH ON!のストーリーを見た児童は食い入るように見入り、楽しんでいた。初回は「もう終わり?」という反応であった。英会話たいそうでは、ノリノリでダンスをする児童がいた。
2回目は2クラスに分ける予定だったが、担当の先生が帰宅してしまったため、1クラス45名で実施。大きなスクリーンやプロジェクター―などを児童がいたずらをしたり、ネットが途中で切れたり、ハプニングが続いてまともに授業ができなかった。小学校1年生ということで、落ち着きがなく、座っていられなかったり、けんかをしたり、寝てしまったり、という状態であった。ファシリテーターの2名はそれでも進めようと、大きな声で指示をしていた。
3日目は最初は25名で開始。途中から10名入ってきたため、混乱。その後さらに5名参加。
同じ内容を3回見てきた児童であるが、全く飽きた様子がなかった。フォニックスの無声音はこの時点ではまだできていない。
帰国後、ファシリテーターとのメールで状況を報告してもらった。(以下原文のまま)
1月21日
Kids are marvellous! Switch-on is being awesome, almost both groups learnt ABC, and even made a performance for JIM, (brush your face, wash your face)
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1月24日
New Dansinglish Time very benificial as it contains every day expressions. The lesson was great today, Actually we decided to divide the group into 3, I hope it makes even better change for Greatness!!!
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人数とその様子を考慮して、45名を3グループに分けたことはよかった。
また、新しい内容に変化していく中で、児童もファシリテーターも柔軟に対応し、混乱なく授業が進んでいるようだ。
5. 現地英語授業参観について(公立小学校・私立小学校・民間塾)
128小学校の4年生の英語の授業を見学、最初の挨拶や指示語"What's this?" "Open your textbooks to page…"などは英語だが、他はすべてウズベク語で説明。教科書に沿って絵を見て英語を言わせたり、ウズベク語の意味を教えたりしていた。板書のつづりに誤りがあったり、先生自身がわからない単語はスマホで調べていた。児童の集中力がなく、半分はおしゃべりといたずら。最後にゲーム"Stand up! Sit down! Stay!" を実施した。mpiのトラストゲーム"Up-Down Catch" を近藤から紹介した。
私立Oriental Classic Study小学校を訪問。公立の小学校と違い、設備が整っていて、英語の授業を英語のみで教えていた。先生方の英語もレベルが高かった。しかし、教え方は文法主義で、単語から導入。ゲームを最初または最後にしていた。近藤が飛び入りで、歌(Hello, How are you?)を教えたら喜んでもらえたようだ。
民間塾の視察も行った。受講生は仕事で英語を生かし、収入の良い職場で働きたいとの希望をもって受けているとのこと。子どものコースでは学校の授業と異なり、会話を楽しむ様子が見られた。
ウズベキスタンは学校が二部制で午後からなので、午前中に英語塾に来ている子どももいた。塾には英語だけでなく、「インテリアデザイン」「アラビア語」「3D設計」など、さまざまであった。
6. ウズベキスタンの英語教材について
2年前から使用言語表記をキリル文字からアルファベット文字へ変更。しかし、教科書などはまだキリル文字が残っている。児童が読んでいる英語の教材はほとんどない。あっても、読み方に発音記号が記載されていたことから、音声については重要視されていないことが分かった。CD付きの本があったが、CDをかける機材が無いとのこと。BBL(mpi刊)のような段階を踏んでレベルアップする読み物は見られた。
7. まとめ
今回の視察でmpiの教材とmpiの研修内容は十分にウズベキスタンで通用することがわかった。イギリスやアメリカの教材、または教授法もあるということであったが、英語を母語ではなく第二言語として学んでいる日本の教育システムに価値を見出している様子であった。興味深かったのは児童の反応は万国共通であるということ。個別指導ではなく、全体指導に「小学校英語 SWITCH ON!®」が適切であることを理解した現地教員からは授業で使用したいという要求もあった。保護者から購入したいとの申し出もあった。私立ではデジタル教材の導入をしたいとの意向も確認できた。塾ではmpiの教材の指示語をすべて英語に変換すればすぐに使えるイメージが沸いた。