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2018年7月4日

英語学習を楽しくてご褒美のあるものに~子ども英語の科学 第3回

mpi松香フォニックス
広報 M

第1回・第2回記事では英語学習に成功する5つの素因のうち。

【1】若い
【2】母語が対象言語に似ている
【3】外国語学習適性が高い
【4】動機付けが強い
【5】学習方法が効果的である

【1】【2】【3】を検証してきました。

今回は【4】動機づけが強い について考察したいとおもいます。

どうすれば目の前いる生徒たちや、勉強嫌いな我が子に進んで勉強させることができるのかしら? そう悩んだことのない教師は親ほとんどいないと思います。某有名な塾のキャッチにもなっている「やる気スイッチ」なんてものが本当に存在すればどれほど楽なことか…。将来の話をしても“のれんに腕押し”。ご褒美でつってもその時だけ。それどころか次回からはより大きなご褒美でなければ動かなくなってしまう(泣)。「あなたのためだから」というのは真実であるにもかかわらず、当の本人はどこ吹く風…。

動機づけの研究は心理学の分野を中心に長い歴史があります。外国語学習に特化した動機づけ研究というのも存在し、ほぼ半世紀が過ぎようとしています。統合的動機付け(integrative motivation)と道具的動機付け(instrumental motivation)が有名ですね。ただ、これらの研究では教室で実際に外国語を教える教師のニーズに応えることができていないという批判がおこり、1990年ころからは教育心理学の理論を援用した動機づけ論へと潮流が変わってきています。

動機づけ研究

動機付け研究の歴史やら概観やらを論じてみてもおもしろくないでしょう。そもそも私にはそんな資格も力もありませんので、今回はあえて、学術的研究から離れたところから動機づけについて考えてみました。

そこで、最近かなり話題となった「お金2.0:新しい経済のルールと生き方」から動機づけに変わる部分に注目してみました。

「私たち人間や動物の脳は、欲望が満たされたときに「報酬系」または「報酬回路」といわれる神経系が活性化して、ドーパミンなどの快楽物質を分泌します。この報酬系は(中略)生理的欲求が満たされた場合はもちろん、他人に褒められたり、愛されたりなどの社会的な欲求が満たされた時にも活性化して快楽物質を分泌します。
この報酬系のお陰で私たちの行動における動機づけがされます。少々言い方が悪いですが、人間も動物もこの報酬系の奴隷のようなもので、ここで発生する快楽物質が欲しいためにいろいろな行動に駆り立てられます。(p.80)」

「長期的な報酬が期待できる場合は、短期的な報酬を我慢して努力したり学習したりすることができ、報酬は人間のあらゆる行動のモチベーションを支えています。
この快楽物質という「ご褒美」なしに、人間は何かに繰り返し打ち込んだりすることはできません。
そして、報酬系が分泌する快楽物質には中毒性があります。一度、気持ちよいと脳が感じると何度も繰り返しやりたくなってしまう性質があります。」(p.81)

「脳は飽きやすい - 変化と不確実性」

脳は、一言でいえば非常に「退屈しやすい」「飽きやすい」性格をもっています。
なので、長時間変化の乏しいような環境であったり、予測可能性の高いような場合は、脳内の報酬系が刺激されにくいのです。
反対に、脳は予測が難しいリスクのある不確実な環境で得た報酬により多くの快楽を感じやすいということが研究でわかっています。さらに、自分の選択や行動によって結果が変わってくる場合には刺激や快感はさらに高まります。(p.84)」

「ゲームとは報酬回路を人工的に刺激する優れた装置」

「この脳内の報酬系の仕組みをフル活用した装置が(中略)「ゲーム」です。(p.87)」
「ゲームの存在は、目に見える「リターン」がなかったとしても、仕組みによって人間の脳の報酬系は刺激されて快楽物質を分泌し、特定の行為に熱中するようになる証明とも言えます。(中略)昨今の優れたサービスや組織が、ゲームの手法をまねた「ゲーミフィケーション」を取り入れているのを見てもわかる通り、ゲームという者が私たちの脳を直接的に刺激する仕組みを凝縮したものであることは間違いありません。」(p.89)

この本を読んで、大人も子どももゲームやSNSにのめりこむ理由、気になって仕方がなくなる理由がよくわかりました。脳内の報酬系にアプローチするように仕組まれていたからだったのですね。

では児童英語教師として目の前の子どもを、進んで英語学習に向かう子どもに育てるにはどのようにしたらよいでしょうか?

英語学習を、楽しくてご褒美のあるものに変えればいい

さきほどの引用部分を英語学習に置きかえると、子どもたちに報酬系を活性化するような働きかけをしてあげれば、快楽物質という「ご褒美」を手に入れることができ、ますますやりたくなる!ということになりませんか?

実は、mpiメソッドに出会ってからというもの、わが子はともかく(笑)、わが生徒への動機づけはかなりうまくいっています!

mpiの児童英語指導法に、学習への動機づけの手法があった

2001年にはじめてmpiの子ども英語指導法セミナーに出会ってから、mpiメソッドにはたくさんの動機づけに役立つ仕組みが隠されていると感じています。そのなかで、最も効果を実感している手法の一つはスパイラル学習です。言葉自体はさほど珍しくないでしょう。しかし、ここを手当てする方法論を組み込んだ教材やカリキュラムというのにお目にかかったのはmpiメソッドが初めてでした。

「人は忘れる」生き物だから、1週間前に教えたことなんかきれいさっぱり忘れている。それが普通で、あたりまえの状況、つまりパソコン用語でいえば、人間の初期設定状態(デフォルト)にもどっているのです。それを受け入れた上で教材が作られていて、レッスンカリキュラムが組み立てられている点に当時はとても驚きました。

スパイラル学習 ― 気づけばくり返し練習していた

スパイラル学習というのは積み上げ学習の反対語です。具体的にいえば、1つ学んだら、次へ進むのではなく、ぐるぐると「スパイラルに」色々な活動を通して継続して学んでゆく学習法です。全く同じことをするのではなく、毎回、すこしずつハードルを上げるのです。

子どもは一度習得したように見えても、いったん外へ出れば残念ながら英語を使う環境は多くないので、もちろんすぐ忘れてしまいます。ほとんど忘れてしまった英語をよみがえらせ、定着させるために手を変え品を変え、何度も繰り返して教えていく手法です。十分にくり返すことによって、子どもは上手にできる事が増え、その結果ほめてもらえる、つまり報酬を得られるのです。

英語が苦手だと思っている子ども達も「できる」ようになっていきます。「できるようになった!」という実感は子どもたちにとって、いえ、恐らくどんな年代の人間にとっても最大の報酬であるはず。脳内から快楽物質が出ているのが目に見えるような経験でした。

予習、復習なんてお題目は右から左に受け流し、宿題をだしてもやってこないグータラ君でも、「できる」子に育てる仕組みがスパイラル学習。何度も何度もしつこく繰り返し練習せられているということを子どもに意識させないアイディアがたくさんあるところがすごい、そう思いながら指導してきました。

学習の一部としてゲームを活用

スパイラル学習に欠かせないのが英語のゲームです。mpiメソッドでは、発音や文字の読み書き、クイズなど、子どもが熱中するゲームを適所に取り入れています。

たとえば、先生が言った絵カードを指さす「Pointing Race」、先生が指さしたカードを言う「Say the Word」など、みんなが活躍できるゲームもあれば、勝ち負けを競うゲームなど、子どもの学習に合わせて、それこそスパイラルにカリキュラムに組み込みます。ゲームで気を付けなくてはいけないのは必ず目的をもってゲームをすることです。ご褒美のためだけにゲームをしては本末転倒。「今日はこれを上手に読めたら後でゲームやるよ!」という方を時々見かけますが、長期的には学習意欲をそぐことにつながると思います。目的をもった、学びにつながるゲームをレッスンにちりばめて子どものやる気を刺激することがとても大切です。

終わりに

子どもに学習の動機づけは決して単純なことではないのは親・教師の立場の方ならすでに十分お分かりのはず。長年の研究はありますが、誰もが納得する解答が得られないように、一筋縄ではいかないのは明白です。

動機づけの専門家は私たちにこう釘をさしています。

『動機づけの真の問題点は、言うまでもなく皆がただ1つの単純な答えを求めていることである。教師は、訓練すればすべての生徒が宿題をやりたくなり、放課後の質問に訪れ、テストの通知表でいい成績をとることのできるような単一の教授法を探し求めている。しかし残念なことに、生徒たちを動機づけるには、日々異なる多様な手法をもちいなければならないのが現実である。(David Scheidecker and William Freeman 1999:177)』

初期のころは単純な二項対立的に語られることが多かった第二言語習得論における動機づけですが、1990年代からは、教室の視点が取り入れられたアプローチがはじまって利用しやすくなってきました。最近ではそこに、時間軸も取り入れられてきています。動機づけは、行動段階によって種類が違うとの発想からです。(行動を生み出す動機づけ→生み出された動機づけが積極的に維持され保護されるための動機づけ→活動の完成に続くための動機づけ。)

このように、より私たちの実感により近く、より利用しやすくなってきていますから、動機づけ研究の動向にも着目していきたいですね。
そして、人によって、そして同一人物でも、その日の気分や、行動の段階によって取るべき手法は変わるのが動機づけであることを理解し、遠回りのように見えますが、子どもの個性に向き合って、今この時必要なものが何かを考えて、文字通り寄り添って学習の動機づけをし、やる気を持続するために知恵を絞るのが私たち教師・親、そして大人の決して終わりのない役割なのでしょう。

広報 M

・統合的動機づけ(integrative motivation)

外的動機づけの一つで、総合的動機づけとも、また統合的志向ともいう。学習者が自分の学んでいる言語を使うコミュニティに溶けこみ、その一員として受け入れられたいという願望を示す。総合的動機づけがなされた学習者は、あらゆる機会をとらえてその文化への接近を図る。

・道具的動機付け(instrumental motivation)

学習動機の一種で、社会的地位を得たい、試験に合格したいといったように、ある目標を達成する手段として学習する場合を言う。例えば、「よりいい会社に就職したいから。」「教養のある人間になりたいから。」という理由で学習する場合がこれにあたる。
(http://www.kanjifumi.jp/keyword/dogutekidokizuke/より引用)

・ゲーミフィケーション(gamification)

課題の解決や顧客ロイヤリティの向上に、ゲームデザインの技術やメカニズムを利用する活動全般。この言葉は「日常生活の様々な要素をゲームの形にする」という「ゲーム化」から派生し、2010年から使われはじめた。

■参考文献:

佐藤航陽(2017) お金2.0:新しい経済のルールと生き方 幻冬舎
松香洋子(2013) 子どもと英語 増補改訂版 mpi松香フォニックス
ゾルタン・ドルニェイ(2005) 「動機づけを高める英語指導ストラテジー35」 大修館書店
参考「フォニックスアクティビティ集」(mpi松香フォニックス刊)

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Flower写真: Freepikによるデザイン


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