松ノ木小学校のある東京都杉並区の教育委員会では、全教育活動の基盤に「小中一貫教育」を据えることを示しています。これに基づき、松ノ木小・中学校では外国語教育においても小中一貫教育を重点課題とし、「Let’s Enjoy English!!~言語や文化の違いを認め、英語で楽しく伝え合う指導法の工夫~」を研究主題とした取り組みを行っています。
取り組みの方向性として、「中学校外国語科教員との【協働】」や、「小学校外国語活動と中学校外国語科の【系統性】【連続性】を踏まえた意図的な接続」を定めており、具体的には、小学校教員と中学校教員とのティームティーチングを取り入れた授業などを実施していました。
さらに具体的に、松ノ木小学校では以下三つの取り組みを実施していました。
①松ノ木イングリッシュタイム
音楽・図工・体育など、特に身体を動かしながら行う活動に外国語活動の形態を取り入れて、授業を英語で行ういわゆる「バイリンガル教育」を実施していました。
②サマーイングリッシュスクール
夏休み前の1週間を使って、重点的に外国語活動の授業を行っていました。 ALTがAll Englishで授業を行うことで、日常で使える英語に慣れ親しむ機会となっているようです。
③英語の日常化
給食や休み時間、他教科などを、ALTと一緒に“All English”で過ごす時間を設けていました。また、校内掲示を英語で行ったり、校内放送で英語の音楽を流すなどし、児童が英語に慣れ親しめる環境づくりを全校で行っていました。
校内放送で流す曲は、簡単なフレーズで繰り返しのある児童が慣れ親しみやすい曲を選ぶなどし、工夫されていました。
今回拝見させて頂いた松ノ木小学校の外国語活動公開授業では、更に具体的に、以下のような取り組みを多くのクラスで実施されていました。
1)ティームティーチング
担任とALT、もしくは専科教師とALTなど、ティームティーチングによる指導を効果的に取り入れていました。
授業の主な進行や、歌などの指導を担任や専科教師が行い、英語での紹介や評価などをALTが行うという、役割分担が明確になっていることがよくわかる、非常にテンポの活動が行われていました。
2)自然なジェスチャーを学ぶ
低学年では、挨拶をするときや歌を歌うときに、児童が考えたジェスチャーを取り入れ、体全体で英語に慣れ親しませる活動を行っていました。また、高学年では言葉だけでは伝えきれないことを、
ジェスチャーを用いて相手に分かりやすく伝えるなど、ジェスチャーの大切さを学ぶ活動を行っていました。積極的にジェスチャーを取り入れることで、より英語に慣れ親しむ活動ができるよう、工夫されていました。
3)評価シートの活用
B・E・S・Tの4項目で評価する「評価シート」を用いて、授業の振り返りを行っていました。4項目はそれぞれ、B=Big Voice, E=Eye Contact, S=Smile, T=Tryを意味します。
これらの4つの項目を目標に外国語活動に取り組むことは、児童の積極的な態度の育成につながり、将来、海外の人たちとコミュニケーションをはかる際にも大切な姿勢を学ぶことのできると感じました。
4)日常的に英語に触れる環境づくり
授業時間だけでなく、朝の時間や帰りの会などにも英語の音に触れる活動を行い、英語のインプット量を増やす取り組みを積極的に実施していました。
その他にも、学年をまたいで同じ構成で授業を行ったり、1回の授業の中でもクイズを通して質問と答えを“繰り返す”活動を行うなど、“スパイラルな学習法”を随所に取り入れていました。
これらの具体的な取り組みを実施している中で、特に松ノ木小学校の外国語活動で素晴らしいと感じた点は、どのクラスでも担任の先生方が主導となり、指導を行っていらっしゃるところです。
指導案の作成を始め、それぞれのクラスの児童が生き生きと授業に取り組めるよう、進め方に工夫がされているのがよく分かる内容でした。
松ノ木小学校では、平成22年度より4年間行ってきたこの研究の成果と課題を以下のように挙げられています。
●主な成果
・英語の日常化
・教員の中学校との接続への意識の向上
・児童の中学校英語に対する関心・意欲の高まり
●主な課題
・小中学校の教員間の交流の時間を年間計画に位置づけ、計画的に確保
・小学校と中学校相互の教員が計画的に授業の検証
・すべての児童が英語に慣れ親しめるようにする
小学校が行った児童や保護者へのアンケートによると、以下3つの観点で80~90%の児童が外国語活動の授業を肯定的に感じているようです。
・コミュニケーションへの関心・意欲・態度について
・外国語への慣れ親しみについて
・言語や文化に関する気付きについて
また保護者の方からも、「家庭で英語を話すようになった」などの声があがっているそうです。
また、中学校での英語学習に向けて準備が出来たと肯定的に感じている児童・保護者の数も約80%と、大変高い結果が出ていました。
一方で、中学校の英語学習へ更にスムーズな接続が必要だと感じられているようで、小中学校の教員間の交流の時間を計画的に確保する必要があるなどの提案をされていました。
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