2016年4月20日
モジュール学習のルーツを見つけた!-九州の小さな小学校で始まったことに-前編

小川隆夫
聖学院大学特任講師
J-Shineトレーナー検定委員
中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー
玉川大学教職大学院講師

レポート:小学校英語の現場から

読者の皆様、松香洋子先生から引き継ぎ、コラムを担当することになりました小川隆夫です。これから1年間、毎回、小学校英語にまつわるいろいろな話題を取り上げて、皆様と一緒に考えいきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

まず、最初に少しだけ自己紹介です。
私は32年ほど公立の小中学校に勤務しました。小学校英語を研究するきっかけとなったのは1990年代に文部省(当時)の帰国子女受入れ推進校に勤務したことでした。その後、日・英の大学院を経て現在は大学の教員をやっています。
松香洋子先生とは2001年に私がフォニックスの研修を受けたのがご縁で研究授業にいらしていただき、児童英語をいろはから指導していただきました。好奇心旺盛な松香先生が1週間ホテルに泊まって私のクラスの子ども達を観察していたという嘘のような本当の話もあります。こうした話もこれから少しずつ紹介させていただきます。

さて、それではまずはモジュールの話題からです。
3月12日、内田洋行本社でmpiの「モジュール学習教材SWICH ON!」の発表イベントがありました。会場は土曜日の午後というのに大勢の教育関係者の熱気で溢れ、まさに今、モジュールが熱いことになっていることを改めて実感しました。

私が知る限り、もっとも早い時期にモジュールで英語の授業を行った学校の1つは福岡県遠賀郡岡垣町立戸切小学校だと思います。この小学校は、平成12年、全校で週2回20分ずつの英語学習を1年間続けました。その実践は末吉たつこ著『九州の小さな小学校で英会話授業が始まった!』(2001, mpi)の中で詳しく述べられています。

この時、戸切小学校は全校児童78名で1学年10名前後の小さな学校でしたが、朝日新聞に「児童数減少の対策として校区外からの特別編入制度を導入したところ8人が応募。応募の理由は英会話授業が週2回組まれることなど…。今年の新1年生は14名」(2000年4月8日)と、驚くような記事がでたことで有名になりました。それほど、当時、小学校で英語授業を行うことは珍しく保護者の関心が高いものでした。

この英会話授業の指導者、末吉たつこさんは元mpi九州支部長で、私のよく知っている方です。末吉さんの1年間の実践は現在の英語活動に十分通じるのはもちろん、まさにモジュール学習のルーツを見るようなものでした。末吉さんがJETとしての初めての打ち合わせで校長先生から言われたことの中にもそれが見てとれます。

○大きな目標として「英語嫌いをつくらない」。そのための指導を行ってもらいたい。と言うのは、
中学校から教科として本格的に学ぶ前に英語はいやだという気持ちを持たせたくない。
○文字は教えないこと。ただし、知りたいという子には、逆に、積極的に個人指導で教えてもらいた
いこと。文字を教えれば、覚えたかどうか知りたくなるのが人情である。そのことが子ども達への評価につながり、行き着く先は英語嫌いをつくるから。
○英語を使ったゲームや歌など動きのある活動を中心に指導してもらいたい。子ども達にとっては、20分とはいえ教科がふえており、それだけでももういやだとならないように、「英会話は楽しい」という気持ちを持たせてほしい。
○教える内容は、1回の指導でほんの少しにしてもらいたいこと。5分間程度で教えられる内容をゲーム等を使って繰り返し指導をすることで、子ども達がむりなく理解でき、定着度も高めたい。
○指導責任は最終的に学級担任にあるが、年間計画の作成や指導の中心はあくまでもJTEの末吉先生におまかせする。

(同書:九州の小さな学校、戸切小学校より原文抜粋)

これは前小学校学習指導要領が完全実施(2002年)され、全国の小学校で総合的な学習の時間において国際理解教育の一環として英語教育が可能になる2年も前ですから驚きです。 これを末吉先生に話された校長先生は真剣に英語の授業のあり方、そして、子ども達のことを考えていたのだと思います。 しかし、そんな校長先生も「英語教育は中学校からが主流の時代、子ども達に受け入れられるだろうか、まだ他に教えることはあるのでは。」と心配されたそうです。 1年後には、そんな心配は杞憂であったと述べられたそうですが、末吉さんの1年間の実践にはこれからモジュール学習のためのヒントがいっぱい見つかりそうです。

長くなりそうですので、この続きは次回にさせていただきます。最後までお読みいただきありがとうございました。

プロフィール

小川隆夫(おがわたかお)
聖学院大学特任講師、J-Shineトレーナー検定委員、中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー、玉川大学教職大学院講師
立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修士課程修了、英国立リーズベケット大学英語教授法修士課程修了
鳥飼玖美子氏のもとで「英語コミュニケーション教育」を学び、松香洋子氏を児童英語の師とする。埼玉県内の小中学校で33年ほど勤務し数々の英語活動の実践を発表する。
著書『先生、英語やろうよ!』 『高学年のための小学校英語』(mpi刊)は、小学校の先生方から英語活動のバイブルと呼ばれ圧倒的に支持されている。