保護者様からのご質問への回答

先日のオープンクラスデーで1学期を終了しました。絵本をしているレベルの生徒さんには新しい絵本をその前の週にお渡しし、次の8月のレッスンまでの間付属のCDを聞くことを宿題にしています。先日ある保護者様からご質問をいただきました。

「今の段階でこの英語の絵本の日本語版を見せても良いですか。」

保護者様としてはお子様が感覚的に理解したり、手探りで理解しようとしている姿を見て、これは大切なことだと思いながらも、間違えて理解していたり、わかってもいない事を言っていることは良いのだろうか、という疑問からのご質問でした。保護者様としてはもっともなお気持ちだと思います。とても貴重なご質問でしたので、お答えしたことプラスαをこのブログで皆様にシェアさせていただきます。

答えは、今はしないでください。

子どもの成長を思い出してみましょう。0歳の頃から絵本を読んであげましたね。0歳の赤ちゃんはお話を理解していたでしょうか。大人が読んでくれる表情や声の調子、絵の色や形、そういうものが楽しくて0歳児でも絵本を喜びました。まだ字が読めない頃は毎日何回も同じ絵本を読んであげたと思いますが、その時、一つ一つの言葉の意味が分かるように説明しながら読んだでしょうか?小学校に入って、ちょっと大人っぽいことも言うようになっていますが、テレビで言っていることや大人の話を子どもたちは完璧に理解しているでしょうか。分からないところを気にしないで自分がわかる範囲で楽しんでいますね。それが子どもの特性です。分からないところは推測しています。私たち大人も全ての日本語の言葉を理解はしていません。テレビでも新聞でも本でも知らない言葉を読んだり聞いたりするときは推測しています。ただ、英語に関していうと、今までの学校の英語教育では和訳・英訳をしてきたので、一字一句分からないといけなかった、だから推測などというあやふやなことはできないのです。そして何が起きるかというと、リスニングにしてもリーディングにしても分からないところがあるとそこに躓いてしまって先に進めなくなるのです。ですから子どものうちに「全部分からなくても忍耐強く聴き続けられる『曖昧さの許容性』と、分かる部分をつなげて要点を把握するグローバル・コンプリヘンション』の力」(和泉伸一 2018)を養うのです。

絵本に関していうと、まず、絵をよく見て、聞こえた通りに英語を言ってみることから始めてください。絵にはたくさん情報が入っています。その絵から内容を想像してみましょう。そのために絵本を教材としているのです。レッスンではお話の内容を理解できるように様々なアクティビティを英語のみでします。そのとき子どもたちは、楽しみながら自分の持っている五感や推測力をフルに使って理解しようとします。理解できたとき生徒さんたちの表情は輝きます。先に意味を知ってしまっていたら、レッスンは全く意味のない活動になってしまいます。時にはその推測は違うかもしれません。けれど他の生徒さんの様子を見たり、私からのフィードバックなどで気づくことができるのです。大人からすると回りくどいやり方であるには違いありませんが、子どもが英語を英語のまま理解する力をつけていく道であると私は信じています。

最後に松香洋子(mpiの創設者、現mpi松香フォニックス名誉会長)の本「子どもと英語」からの抜粋をご紹介します。

10のうち10を理解しろ、という教え方は、子どもの英語習得にはあいません。ですから、子どもが理解していない単語などがあっても、気にしないでください。「〇〇ちゃん、これはどういう意味?!」と問い詰めるなどは絶対禁止です。「分からないところがあっても楽しんでいる」という子どもにしかできない楽しみ方・学び方を尊重して、「分かる」よりも「楽しむ」を優先しましょう。子どもは分かっている部分を手がかりに、自然と他の英語も理解していきます。

最後の最後に、日本語に翻訳されているものには原作とは全然違う意味や内容にしている部分があるものもあることをお忘れなく。

参考文献 和泉伸一(2018) 第2言語習得と母語習得から「言葉の学び」を考える         松香洋子(2011) 子どもと英語