宮 清子
2010年11月2日
日本人のための
「フォネミック・アウェアネス」のススメ
宮 清子
レポート:小学校英語の現場から

2.フォネミック・アウェアネスの指導の基本

 英語圏での指導はかなり段階が多いのですが、ざっくりと日本人の子ども達にも役立ちそうな指導のエッセンスだけを取り出してみましょう。

2-1. 単語の一部の音を聞き分ける
 まずは、音声に耳を傾ける練習から始めます。単語の最初の音、単語の後ろの部分の音は同じか、同じ音で始まるものはどれかなど一部の音に耳を傾ける練習をします。

    monkey とthreeの最後の音は同じ? 
    jelly とjuiceの最初の音は同じ?

2-2. 単語から音節に気付く
 音節は1つの母音または母音と子音の固まりです。単語を聞いていくつの固まりか聞きわけます。

     Pen=pen         1音節
     Penguin=pen-guin    2音節
     Elephant=el-e-phant  3音節 

 これは音声学的な音節分けの正誤を教えるのが目的ではなく、音声構造の分析の一歩で、長い単語の正確な発音やスペル攻略につながります。
特に日本人の子どもには、お手本をまねて手をたたきながら発音し、アクセントのところは高く手を上げてたたくなど、単語の中の強勢も含めた英語の語形の特徴を体感することが第一歩です。
音節分けに慣れたら、今度は、分けた音節をつないで単語にする練習をします。分けっぱなしで終わると、中には分けたままで発音する子どもがいるようです。このように単語の音声を「分けたり、つないだりする活動」が大切です。徐々にお手本にない単語にもチャレンジしましょう。

2-3. 音節からオンセット・ライムに気付く
 1音節の単語から一気に音素に分けるのは無理があります。
その間の1段階がオンセット・ライムの分け方です。

     Red = r (オンセット=頭子音)+ed (ライム=母音+尾子音)
     Black= bl + ack

 日本語はモーラという(子音+母音)単位で音声を知覚するので、英語学習にとって、音節以下の単位に分ける活動は不可欠といわれます。(湯澤,2007)
母語話者の子ども達にもけっこう難しいようで、単語を超スローにのばして言うことで音の変化に気付いたり、ライムの部分が同じ単語(ライミングした単語)の仲間を見つける練習などで次第に理解していきます。そのためにアリタレーション(頭韻)やライミングが豊富な絵本やチャンツで音声体験をしておきます。
その後は音節同様、分けた音をつないで単語にする練習などをします。

2-4. 音素に気付く
 最終的に単語を自分で音素に分けたり、つないだり自由に操作できることを目指します。

     fish = f(初頭音)+i(母音)+sh(語末音)

 初頭子音、語末子音、母音の難易順に気付かせます。
それぞれの音素が取り出して言えるようになると、単語を聞いて、音の数だけ手をたたいたり、音をつないで単語にする活動を盛んにやります。

     melon(メロン)音素 /m/ /e/ /l/ /o/ /n/ 5個
     peach(ピーチ)音素 /p/ /ea/ /ch/ 3個

 ここでは文字学習以前が基本ですので、箱や紙皿、ブロックなど、音のイメージになるようなものを利用すると良いようです。しりとりなどでも遊びます。

 ここまでくるとフォニックス指導した後の方が分かりやすいと思うかもしれませんが、ポイントは、子どもの注意が「文字を音声化する」、単語を「見て覚える」ことに向かないで、純粋に音声に集中し「音声構造を理解する」ことに向けられるかどうかにあります。

Superstar Songs 1 Superstar Songs 2 Superstar Songs 3


3.フォニックスとフォネミック・アウェアネス一考

 フォニックスは文字と音声の間にあるルールを教えます。フォネミック・アウェアネスは単語の音声構造を理解することですから、文字を介さないのが基本です。

 mpiのフォニックス指導は、「音のたしざん」「わりざん」「フォニックス書きとり」などフォネミック・アウェアネス指導の延長線上の活動も入っているので、フォネミック・アウェアネスの指導は必要ないと思う先生もいるかもしれません。しかし、子ども達が英語で読み書きができるから「英語のフォネミック・アウェアネスをしている」とは限りません。

 単語の音声構造に対する理解が育ってなければ、フォニックスのルールを切り取って教えても効果が薄いといわれます。そして、フォニックス指導が始まっても、終わっても、子ども達にフォネミック・アウェアネスで身に付けた力を常に思い出させる指導が大切といわれます。(Adams,1997)