こどもと英語ニュース ~レポート 小学校の現場から~

2015年9月28日

松香洋子の私的小学校英語教育論

2015年9月28日
松香洋子の
私的小学校英語教育論
第6回 Where + Where

mpi松香フォニックス会長
松香洋子

レポート:小学校英語の現場から

今回は、小、中連携ということを考えてみたいです。私が公立小学校における英語というテーマに関わるようになった20年前から、最も関心をもってきたテーマです。

まだまだ公立小学校における英語教育が実験段階であった頃、東京都のある市で小中連携した英語教育というテーマが設置され、そのプロジェクトのアドバイザーになって3年間を過ごしました。

まずびっくりしたことは、そこの小学校と中学校は隣接していたにも関わらず、両方とも金網で仕切られていて、お互いを訪問することもなく、先生同士も面識がない、ということでした。 はじめは、お互いの校舎の見学会というところからこのプロジェクトは始まり、金網の一部を開けてもらって、ぐる~と回らなくても行き来しやすいようにしてもらう、ということから始まったのです。

小学校の先生たちは、手探りで「英語」というものに取り組み、中学校の英語の先生たちはゼロスタートでない中学校英語というテーマに取り組む筈でした。もちろん、定期的に連絡会を開催しようとするのですが、小学校の先生は「これでいいのだろうか」と戸惑い、 中学校の先生は校務があるからと連絡会への出席もままならない、というありさまでした。市から委託をうけての研究プロジェクトでしたが、いばらの道というのはこういうことかな、と私は現実の厳しさにびっくりしました。

2年目から、その小学校での英語は1年目よりずっとスムーズに滑りだしました。小学校の先生たちは日頃からたくさんの教科を教えているため、視野が広く、どうやって子どもをのせていくのかということがとても上手でした。一方、中学校の先生は「何も成果はない」とつっぱね、ゼロスタートの中学校英語を続行しました。

3年目は、このプロジェクトをまとめる年でした。教育委員会の担当者ばかりでなく、校長先生まで交代になり、たいへんなことでした。しかし、実力のある小学校の先生たちは、独自の案もたくさんだし、まとめにむかって頑張ってくれました。中学校の先生たちは、中学校のはじめての授業でする「自己紹介」のために配布するプリントには全面的にカタカナをふらない、というのを認めるというところまでは納得してくれました。

このような話は昔ばなしです、と言いたいです。
あの頃に比べれば、小学校での外国語教育、英語教育は格段の実績をつみました。多くの中学校の先生たちがこどもたちが変わった事をみとめてくれています。
「英語を聞く力がついている」
「英語だけの授業を当たり前のように受け止めている」
「ALTの先生になれている」
「自分から手をあげてコミュニケーションをしようとする」
「スピートの早い英語になれている」
「発音がよくなった」
こんな声を聞く度に、日本の英語教育が変わってきたことを実感します。とてもうれしいことです。

さて、これからいよいよ、2020年をめざして、小学校5、6年生の英語は教科になり、開始時期は3年生になる、という転換点を迎えます。これからの小、中連携はどうなっていくのか?

これは私的小学校英語教育論ですから、私的な意見を述べてみます。

小学校では、あくまでも、体験的に学ぶ、という姿勢は崩すべきではない。小学校では、あくまでもコミュニケーションの素地をやしなう、という精神は忘れてはならない。 世界の人々と英語で話してみたい、日本を訪れる人々にはおもてなしの心で接したい、といったことは基本中の基本。

現行の中学校1年生の英語指導の内容は、小学校での指導に含める。つまり、Do you, Are youだけにとどめず、Does, Is, Are theyの世界まですすめる。疑問詞もWhatだけにとどまらず、Who, Where, When, Which, Howと遠慮なく導入するのがよい、と思う。 ただし、読み書きでそこまでいくということでなく、聞く、話す、の世界で導入をはかる。

アルファベットおよび、その音と文字の関係、簡単な単語の読み、書きの基本は、小学校でおこなう。中学校へ行ったら、なんとなく教科書が読める、という気持ちをもつことが大切。

小学校の先生たちの実力、英語だけで大人数の生徒を楽しく有意義に指導できる中学校英語教員の実力。この2つの力が活かされれば、これからの小、中の連携の先行きは明るいです。

最後になりましたが、私がかかわって6年目のある東京都の市では、小、中連携に果敢に取り組んでいます。 すべての教科で、小、中、連携というテーマに取り組んでいる。 すべての教科に、小、中から選ばれた委員が存在し、委員会が存在する。 それぞれの教科で、委員会を開催し、公開授業をする。 英語では、13小学校、7中学校から選ばれた20名が委員。 英語科では、昨年度、「ALT活動資料集」を先生たちが執筆して作成。 今年度は、この委員の先生たちが、夏休みに小学校5、6年生の担任に対して研修。

私ははじめて、小学校と中学校の先生がチームとなって、小学校の学級担任を研修するという場面を見ました。 去年一年間にわたり、テーマ別に5つのグループに別れ、中学校の先生たちがALTの役、小学校の先生は学級担任、という役割分担でティームティーチングの練習をしてきたのですが、この研修の素晴らしさに私は感動しました。

小学校の先生は、中学校の先生の英語の実力を尊敬し、中学校の先生たちは全教科を教えている小学校の先生たちの指導力を尊敬する。 アイディアが豊富で、子どもの指導が上手な小学校の先生を、英語的な側面から中学校の先生たちがさりげなくサポートする。

いざとなったら、先生たちは準備万端。いざとなったら、現場にいる先生たちは強いです。現場にいる先生が現場にいる他の先生を研修する、という珍しい研修は、質問も飛び交い、発言が多い。 押し付けがましい研修でないので、参加者も積極的に参加。いいものをみせていただきました。ALTを研修に巻き込めないという厳しい状況の中、すっかり仲良くなった小学校の先生たちと、中学校の英語の先生。嬉しかったです。こういう研修が日本の多くの自治体で成功したら、小中連携の景色も変わってくるでしょう。

これから大きな変化をする筈の小学校英語、そしてそれを受けてたつ中学校英語、関係者の新鮮な発想と努力が新しい展開をもたらすことを期待しています。

松香洋子プロフィール


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