卒業!英語力だけでなく「できる」という自信につながった。
「指導者が教えない」という前提で進めてきた実践記録も、5カ月がたちました。
とうとうこの連載も最終回を迎えます。使用しているのは、昨年9月に刊行された『小中学生のための発音トレーニングブック』です。対象は、これまで学校以外で英語学習の経験がない中学1年生のMさんです。
私とMさんが直接関わるのは、月1回・30分程度。
・学習の進み具合の確認
・次回までの進め方の相談
・疑問点への対応
・簡単なインタビュー
この時間に行うのはこれだけです。私の役割は「教える人」というよりも、学習の道筋を一緒に整理する伴走者、あるいは応援団長のような立場です。
実際の学習は、すべてMさん自身が自宅で進めます。テキストを使い、スマホで音声や動画を視聴しながら、繰り返し取り組んでいます。
学習開始から数カ月がたち、自立学習がすっかり板についてきたMさん。
前回はサイレントe(home, fiveなど)、そして今回は2文字子音(ship, mathなど)のルールに取り組みます。
また、前回に引き続きStoryを読みながらパワーワードをマスターします。
最終回、第5回目のご報告です。
第4回目(前回)までにMさんが習得したこと
前回までに、Mさんが取り組み習得した内容は以下の通りです。
・アルファベット(1番)
・フォニックスアルファベット(2-4番)
・アルファベット26文字(21の子音と5の母音)、音をつなげて読むブレンディング(〜52番まで)
・サイレントe(63-72番)
・Storyを通してパワーワードを学ぶ(57-62, 79-84番)
*いずれもBook1です。
第4回(前回)の課題について
第3回の課題は、以下の内容でした。
・Book2 2文字子音(1-12番)
・Book2 Story「私のママはどこ?」(17-22番)
2文字子音
このテキストで取り上げている2文字子音は全部で8つ、
sh, ch, ph, wh, th(無声音), th(有声音), ck, ng
です。
【図】Book2で学ぶ2文字子音のルール
2文字子音の手順は以下の通りです。
1. 聞こえた音をまねしよう
2. 聞こえた単語を絵で確認
3. フォニックスのルールを〇で囲もう
4. 単語を指さしながら読もう
5. 単語を指さしながら、よい発音で読もう
特に2文字子音からは、フォニックスルールを見つけて丸で囲む活動が入ります。これから自分で読むときに、「どのルールの単語なのか」を意識して見つける習慣をつけることはとても大切です。そうすることで、ルールをあてはめて正しく読むことができるようになります。そのためのステップです。
5番のリズム読みもこれまでとは違う楽しい活動です。
cherry ⇒ chin ⇒ chop
chop ⇒ cherry ⇒ chin
chin ⇒ chop ⇒ cherry
順番が次々と変わっていくものを、素早く正しく読んでいくことで、だんだんとルールを意識できるようになり、正しく速く読めるようになってきます。リズム感も自然と身につきます。
Mさんは、ngの音だけ発音に苦戦していました。「n+g=ング」と読んでしまいがちでしたが、鼻に抜く感触をつかむため「ん~~」と息を吐く練習をすると、コツをつかめたようでした。
発音チェックにチャレンジ
このテキストには「発音チェッカー」がついています。
Book1, Book2ともに裏表紙のQRコードを読み込むと、発音チェックに進みます。
やり方は簡単です。
① 各テキストの裏表紙にあるQRコードを読みこむ
② チェッキングのページを選ぶ
③ チェックしたい単語を選び, タップしてから発音
④ 結果を確認
「おしい!もう一度」「すばらしい!その調子」など、発音チェッカーがコメントをくれます。「おしい!もう一度」の場合には、自分の発音がどう読みとられたかも確認できます。
該当ページを選びます
発音をチェック!
判定結果がでます
Mさんもチャレンジしてみました。
fish:1回目で合格
lunch:1回目は「runt」と判定され再チャレンジ、2回目で合格
alphabet:1回目で合格
今回は、最初は不合格で、すぐに修正して合格となった lunch に着目しました。
インタビューより
鈴木:発音チェック、どうでしたか?
Mさん:間違えたところが「runt」と出てくるので、どこが違うのか分かりやすいです。
鈴木:lunchがruntになっていたよね。それを見て、どう直せばいいか自分で分かりましたか?
Mさん:2回目はlの発音を意識して、舌の位置を変えてみたら合格できました。
鈴木:自分で修正できたのがすばらしいですね。この機能は、これからの自主学習でも使えそうですか?
Mさん:はい!
Mさんは、読み取り結果を見て自分で違いを分析し、「こうかな?」と考えて修正し、再チャレンジしていました。その表情から、自信が垣間見えました。
これまで学んできたことを生かし、自分で修正する力を身につけていることが、何よりも頼もしく感じられました。
タイピングにチャレンジ
このテキストには「タイピング」のページがあります。
タイピングの練習ページ
学習した単語を、ページ下部に印刷されたキーボードで打ち込む練習をします。
キーボードは少しMさんの手には小さめですが、楽しみながら取り組んでいました。
もし、タブレットやパソコンなどがある場合は、実際に打ち込む練習をしてみるのもよいですね。
キーボードは、どの指で打つとよいかがわかるように色分けされています。小さなお子さんにもわかりやすく、指と文字を結びつける活動として楽しく取り組めます。
Mさんは、発音しながらキーボードをタッチしていました。なかなか速く、とても楽しそうでした。
こちらが特に指摘しなくても、発音しながら手を動かしている姿はとてもほほえましく、音への意識が身についていることを嬉しく思いました。
さて, このような活動を通して感じたのは、このテキストが、さまざまな学びの特性を持つお子さんでも無理なく「読む力」を身につけられるよう工夫されているという点です。
Mさん自身は、特に「書くこと」に大きな苦手さがあるわけではありませんが、それでも音と文字を結びつけながらタイピングすることで、より自然に英語に親しんでいる様子が見られました。
一方で、正しく読めても「書くこと」に苦手さを感じるお子さんは少なくありません。実際、私たちの生活でも、手で書くよりタイピングや文字入力をする場面が増えています。
そうした中で、書くことにつまずいていた子が、タイピングを通して自分の考えを豊かに表現できるようになることもあります。
このような多様性を大切にしながら、「まずは読めることを大切にする」
というこのテキストの理念を、あらためて実感しました。
「ハイブリッド方式」で自然に文が読めるように
~フォニックスルールとパワーワードを並行して学ぶことの良さ~
前回もお伝えしましたが、発音トレーニングブックには「パワーワード」
が登場します。
従来はcome や your などの高頻度語は、「サイトワード」や「例外」として扱われることが多く、ルール学習とは別の位置に置かれがちでした。けれども、実際の英文の中で何度も出会うのは、まさにこうした語です。
そこでこのテキストでは、高頻度語をあらかじめ「パワーワード」として位置づけ、ルールと並行して学びます。
・ルールで読める語
・よく出てくる大事な語(パワーワード)
この二つを、「ハイブリッド方式」で並行して学習していきます。
Book1で43語、Book2で72語。 合計115語のパワーワードは、イラスト付きのストーリーの中で繰り返し登場します。
単語だけで覚えるのではなく、文の中で、意味の流れの中で、自然に身につけていけるのが大きな特長です。
今回は、Book2の17番、Story①「私のママはどこ?」にチャレンジしてもらいました。
このコーナーの進め方は、以下の通りです。
① パワーワードを聞こう
② パワーワードを指さしながら読もう
③ お話を読もう(〇□△の印をつけながら読む)
Story①「私のママはどこ?」のページ
Mさんは、第4回からパワーワードの学習を始めています。
第3回を終えた時点では、「単語はだんだん読めるようになってきたけれど、文を読むのが難しい」と話してくれていました。
パワーワードの導入から2カ月。Mさんの読みに、少しずつ変化が見られるようになってきました。
一番の変化は、一つ一つの単語をぶつぶつと区切って読むのではなく、流れるように読めるようになってきたことです。
英語では、前後の単語が自然につながりながら発音されることがあり、リンキングと呼ばれています. Mさんは, このページの最初の文 “I can not find my mom!” の”can not”を「キャン ノット」と区切って読むのではなく、「キャノット」のように自然な流れで読んでいました。
前々回には「文を読むのが難しい」といっていたMさんがこのように読めていたことから、音声を繰り返し聞きながら練習していること、そして簡単なストーリーをイラストとともに楽しみながら学んでいることが、しっかり力につながっているのだと感じ、とても嬉しく思いました。
5回を終えて
インタビューより
鈴木:今まで5回、よく頑張ってやってきました。最後にいくつか質問させてください。
1問目
単語を発音したり、英語を読んだりすることについて、どんな変化がありましたか。
鈴木:始める前に比べて、単語を発音したり、英語を読んだりすることについて変化はありましたか?
Mさん:始める前は、なんとなく聞いたことをそのまま言う、みたいな感じだったんですけど、このテキストをやり始めたら、新しい単語とか、わからない読み方とかがだんだんわかってきました。
鈴木:どうしてわかるようになってきたのかな?
Mさん:たとえば文字とかが大きく書かれているし、読み方も音声があるから、わかりやすかったです。
鈴木:なんとなく聞いたことを言う感じで、学習を始める前は、自分から読むのはなかなか難しいと思っていた、ということですか?
Mさん:はい。
2問目
気持ちの面では、何か変化がありましたか。
鈴木:この本を始める前と今とでは、気持ちの面で何か変化はありましたか?
Mさん:最初は、読み方などにあまり興味がなく、自分から知ろうともしていませんでした。でも、これを始めてから、「どうやって読むんだろう?」と気になるようになりました。
鈴木:このテキストだけでなく、ほかの場面でもそういう変化がありましたか?
Mさん:はい。
鈴木:最初は英語が苦手だと言っていましたが、その気持ちにも変化はありましたか?
Mさん:まだ得意とまでは言えませんが、「苦手」というよりは、だんだんできるようになってきたかな、という感じはします。
鈴木:それはよかったです。
3問目
できるようになったと感じることを、具体的に教えてください。
鈴木:最後の質問です. 今, できるようになったと思うことを, 具体的に教えてもらえますか?
Mさん:最初は、たとえば “F” だったら、ただの「フ」って思っていました。
鈴木:カタカナの「フ」ということですね。
Mさん:はい(笑)。最初にやったフォニックスアルファベットの学習で、「くちびるをかんで f」といったやり方がわかりやすくて、「どうしてこの音になるんだろう」と考えるようなり、一つひとつの音がわかるようになりました。
鈴木:なるほど。他にはありますか?
Mさん:書く面では、英文を書くのが苦手でした。以前は音だけを頼りに、なんとなく書いていたので、全然違うスペルになってしまうこともありました。
鈴木:それだと間違えてしまいますよね。
Mさん:はい(笑)。でも、これを始めてからは、「こうかな」と考えて書いてみると、合っていることが増えてきました。
鈴木:自信もついてきましたか?
Mさん:はい。
鈴木:よかったです. なんとなく書いても正しく書けないときは, どんな気持ちでしたか?
Mさん:なんか、もう、あきらめていました(笑)。
鈴木:今は、音を聞いて書くこと自体は同じでも、ルールがわかったことで、より正しく書けるようになった、ということですか。
Mさん:はい。
鈴木:5回のチャレンジは成功したと思いますか?
Mさん:はい。
鈴木:お疲れさまでした. これまで5回, 本当によく頑張りましたね。
レッスンの終了証と共に
最後に
Mさんと初めて出会ったのは、昨年9月のことでした。
英語に苦手意識を持ち、「うまくいかない」という思いを抱えていたMさんと、この5カ月、ゆっくりと時間をともにしてきました。私がしたことは多くありません。Mさんがテキストと向き合い、自分の力で進もうとする姿を見守り、ときに声をかけ、変化を一緒に喜んできただけです。
それでもこの5カ月で、Mさんは音と文字のつながりを理解し、英語らしく読むことができるようになってきました。何より、「できるかもしれない」という手応えを感じ始めているように思います。
ここでの学びは、まだ入口にすぎません。
これから先、聞く・話す・読む・書くという力を自分で広げていく中で、この経験が土台となり、支えになっていくことを願っています。そして同時に、その力はきっと、これからの学びの中で生きていくはずだと感じています。
5回にわたる小さな積み重ねが、これからの大きな一歩につながっていくことを願いながら、この連載を終えたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。
最後に笑顔で
執筆:鈴木美香
津田塾大学学芸学部英文学科卒業後、インクルーシブ教育を実践する東京都の私立総合学園で教職に就き、現在に至る。その間、米国マサチューセッツ州ボストン東スクールに13年間勤務し、現地の子どもたちを指導。米国レスリー大学大学院を修了し、教育学修士号を取得。
2000年に帰国後、mpi英語指導者資格、mpiフォニックス指導者認定を取得し、のちにmpi英語指導者養成セミナー講師に就無。現在はSuzuki English Studioにて幼児から高校生までを指導。
『小中学生のための発音トレーニング - フォニックスで読む力がつく‐』(mpi刊)共著者。