2017年3月31日
小学校英語教科化
『ti』『chi』どっち?

小川隆夫
聖学院大学特任講師
J-Shineトレーナー検定委員
中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー
玉川大学教職大学院講師

レポート:小学校英語の現場から

 今年度もあっという間に終わりです。読者の皆様も新年度に向けていろいろな計画があることでしょう。私は卒業式、新年度の準備、そして、もうすでに始まっているオープンキャンパスにと相変わらず忙しい日々を送っています。
さて、3月は小学校英語について、いくつかの記事が新聞に出ましたので、今回はそれを紹介したいと思います。

 『小学校教員、英検2級目標 20年度の教科化にらみ 』という見出しが、日経電子板に出たのは3月21日でした。これは小学校の教職課程では英検2級程度の英語力を身につける目標を設定したというものです。 この前日20日には、文部科学省の委託を受け東京学芸大学などが作成した大学の教職課程で共通して習得する英語の基礎的な学習内容「コア(基本)カリキュラム」が発表されました。
 しかし、これはかなりハードルが高いと思います。実際、この紙面でも全国の公立小学校教員約35万人のうち、英検準1級以上が1%で、6割超が民間の英語検定試験を受けた経験がないと書かれています。 小学校の先生にとって英検などは今まで意識したことがなかったということがわかります。これから小学校教職を目指す学生は高校卒業時点で準2級や2級を取っておかないと、大学では教職課程の勉強とともに英語力もアップさせなくてはならないことになります。 小学校の先生という職業が精神的にも肉体的にもかなり厳しいというイメージがある昨今、これによって小学校課程を目指す「子ども大好きな情熱のある若者たち」が少なくならないかなとも少し心配です。

 また、毎日新聞には同日、『小学校英語教科化『ti』『chi』どっち?ローマ字、児童混乱、教員ら「一本化」』をいう記事がありました。そう、私たちが英語を教えていく中でいつも困ったなと思う訓令式とヘボン式の問題です。

私も2月に研究指定校の4年生の研究授業を見学に行ったところ慎吾君という一人の男の子の名札がSINGOになっていました。よく見ると千尋さんはTIHIROさんになっていました。これは国語で勉強した通りに名札を書いたのですから正解です。しかし、名前や地名など実際の表記にヘボン式が圧倒的に多くなっている現在、子どもたちも混乱するでしょうし、教える教師も困ったなと思うことが多いでしょう。

 なぜ、こんなことが起こるのでしょう。
訓令式は音を母音と子音の2文字で表すことができ、読み書きに便利ということもありますが、実際は、文部省(当時)が1954年に内閣告示で訓令式のつづりを正しいローマ字と定めたことによります。現在もそれが生きているわけです。 この時、ヘボン式の使用も認めていますが、国語科としては訓令式で教えているわけです。
 私はキーボード入力も書く時もすべてヘボン式を使いますが、この記事によるとキーボードを打つときはタイプ回数の少ない訓令式を使い、ローマ字と書くときはヘボン式を使うという人がいることを知りました。また、毎日新聞が文科省に取材したところによると「特段の理由がない限り、内閣告示で定められた訓令式で教えることになる」と答えたそうです。 でもこれって60年以上前に定められたものですから。今、そして、これからを生きる子どもたちのためを考えたらどうなのかと思ってしまいました。読者の皆様はいかがでしょうか。

プロフィール

小川隆夫(おがわたかお)
聖学院大学特任講師、J-Shineトレーナー検定委員、中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー、玉川大学教職大学院講師
立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修士課程修了、英国立リーズベケット大学英語教授法修士課程修了
鳥飼玖美子氏のもとで「英語コミュニケーション教育」を学び、松香洋子氏を児童英語の師とする。埼玉県内の小中学校で33年ほど勤務し数々の英語活動の実践を発表する。
著書『先生、英語やろうよ!』 『高学年のための小学校英語』(mpi刊)は、小学校の先生方から英語活動のバイブルと呼ばれ圧倒的に支持されている。