2016年6月23日
チャンクでインプット

小川隆夫
聖学院大学特任講師
J-Shineトレーナー検定委員
中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー
玉川大学教職大学院講師

レポート:小学校英語の現場から

 「小学校で英語」という言葉が世間で言われ始めた2000年頃。私は日本の子ども達に世界中で通用する一生ものの英語を、どうしたらインプットできるのだろうかと考えていました。そこで、子ども達が学校生活や家庭生活で実際に使うフレーズをチャンク(決まり文句)として、丸ごとインプットしてしまおうと思いました。
 もちろん、これは私の直観だけでなく、すでにマイケル・ルイス がレキシカル・アプローチで提唱していました。それは日常使う表現は語彙の結びつきなどがパターン化していますし、私たちは最初から組み立てた語彙のまとまりを持っていて、それを場面に合わせてそのまま引き出して使っているので、 単語を一つずつ教えるのではなく、数語のかたまりで教えようとするものです。
 チャンクでインプットすれば、世界中の人たちが同じように使っているフレーズを子ども達が使うわけですから絶対に通じるし、文法的な間違いもありません。単語を入れ替えればいろいろな場面に応用ができます。その上、子どもの時に覚えた表現を大人になっても使えます。

 しかし、実際にチャンクで教えたいと考えても、実際に使う教材が見つからないのです。そんな時、池袋西武にある書店で何気なく手に取ったのが英文と絵しかない『英会話たいそう』の薄いテキストでした。これはもしかして私が求めていたチャンクの本かもしれないとビデオテープとともにすぐに購入しました。 担任していた4年生の子ども達に教えたところ、子ども達はまたたく間にチャンクを自分のものにしていきました。面白いことにこれが全校に広まると学年は違っても全員が同じチャンクを知ることになり、英語が全校児童に身近なものになりました。
 私が今更言うことでもありませんが、この『英会話たいそう』のインプット効果は多くの実践者によって報告され、今でもたくさんの幼稚園や小学校で使われています。

 今回取り上げるmpiの新教材『小学校英語 SWITCH ON! 』にあるテーマに応じた表現は『英会話たいそう』の流れを踏襲してまさにチャンクで構成されています。

Story No.1を見てみましょう。
Narrator: This is Jim.
Jim:Hi, Dad.
Dad:Good morning, Jim.
  How are you? Wow!
Jim:I’m sleepy…
Dad:Are you alright? Look at your hair.
Jim:Hi, Mom.
Mom:Good morning, Jim.
How are you? Wow!
Jim:I’m sleepy…
Mom:Are you alright? Look at your hair!
Narrator:Jim goes to the bathroom.
Jim:①Wow! Cool! I’m a lion.
Mom:Jim! Brush your hair and wash your face!
Jim:I brush my hair. I wash my face.
Now I’m ready!

どうです。日常の朝のやりとりが、チャンクで構成されていますね。これを先生が子ども達と一緒に楽しんで視聴し、教室の中で意識して使っていくと子ども達にチャンクがどんどんインプットされていくでしょう。もちろん、このチャンクの中の単語を入れ替えたり、ちょっと順番を変えたり、後半を工夫するだけでストーリーはどんどん広がります。 『英会話たいそう』のように踊ったり、歌ったりしませんが、アニメーションがインプットを加速させてくれるでしょう。

パンチラインがあるから楽しい

 実はこのアニメーションにコミュニケーションが活き活きとして、インプットが楽しくなる仕掛けがあります。
 それは①があるからです。これはパンチライン、日本語では「おち」とでも言えばいいのでしょうか。英語の楽しいコミュニケーションにはこれはかなり重要です。英語の会話ではこうしたちょっとしたおちを楽しみます。
日本人は苦手なのですが、やさしい言葉のやりとりでもしっかりと「おち」はつけられます。『小学校英語 SWITCH ON! 』は簡単で基本的なチャンクの組み合わせでもしっかり「おち」をつけられるという見本です。
 イギリスやアメリカの絵本ではいつもどこかに「くすっ」と笑わせるものや「ああっ」と感心させられるパンチライン(おち)があります。ところが日本の英語教材用の絵本にはこのパンチラインがあるものがなかなか見当たりません。教材編集者がそこまで考えて作っていないのかもしれませんが、パンチラインがあるかないかで完成度がずいぶん違ってくるものです。

 さて、このストーリーでは①Wow! Cool! I’m a lion.の場面のアニメーションを観た瞬間に「くすっ」と笑いがでますし決まったなと思わせます。そして、子ども達はストーリーに親近感を持ちます。パンチラインはコミュニケーションの潤滑油みたいなものなのです。
 こうしたパンチラインのある完成度の高いストーリーに触れさせておくと、自分たちがスキットショーを作る時にすぐに利用できます。英語の文章を楽しむこつがわかってきます。

 今回は『小学校英語 SWITCH ON! 』のLesson 1をチャンクとパンチラインの2点から考えてみました。『小学校英語 SWITCH ON! 』にはたくさんの仕掛けが隠れているようです。次回も一緒に考えてみたいと思います。

『英会話たいそう Dansinglish テキスト』
『小学校英語 SWITCH ON! 』

プロフィール

小川隆夫(おがわたかお)
聖学院大学特任講師、J-Shineトレーナー検定委員、中央教育研究所小中高大英語教育プロジェクトメンバー、玉川大学教職大学院講師
立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修士課程修了、英国立リーズベケット大学英語教授法修士課程修了
鳥飼玖美子氏のもとで「英語コミュニケーション教育」を学び、松香洋子氏を児童英語の師とする。埼玉県内の小中学校で33年ほど勤務し数々の英語活動の実践を発表する。
著書『先生、英語やろうよ!』 『高学年のための小学校英語』(mpi刊)は、小学校の先生方から英語活動のバイブルと呼ばれ圧倒的に支持されている。