2015年5月26日
松香洋子の
私的小学校英語教育論
第2回 What?

mpi松香フォニックス会長
松香洋子

レポート:小学校英語の現場から

第2回 What?

エリック・カールの「Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?」という絵本の話をします。おそらくこの記事を読んで下さっている方は、 全員がこの絵本を知っている、又は指導のために使ったことがあるのではないでしょうか?

この本の魅力は、
1. 見開きページいっぱいに描かれた動物の絵。これ以上わかりやすいものはない。天才のなせる技です。
2. 青い馬だったり、むらさき色の猫だったり。子どもの想像力を刺激。
3. 繰り返される英語、心地よいリズム。あっと言う間に覚えられる。
4. 最後のところは英語が違う。ずっとa red birdのようにaがついて
いたものがchildrenにかわり、aはなくなる。主語もI からWeにかわる。ここをきちんと指導できるかが、指導者の腕の見せ所。

私にとっても実に思い出深い教材です。

「感動」
子どもたちが完璧な発音とリズムで、すぐに覚えることに感動。だいたい3回くらい聞くとできてしまう。子どもが発音する様子を、わかりやすくするためにカタカナで書き表すと「バンベ、バンベ、ウッオデューシー」みたいなことになります。 つまり、大人が思う、字で書き表した”Brown bear, brown bear, what do you see?”とは大幅に違うのです。そこには文字が介入しないprosody(リズム、強弱、スピード、高低、声の質)だけの世界があるのです。 この時点では、子どもの英語は完璧なのです。時々、文字を読める大人が小さい子どもの指導に介入すると、prosody読みをしていないのですぐにわかります。

「思い出」
まだまだ小学校英語がどうなるかわからなかった15年くらい前に、ある県で小学校教員の研修に呼ばれて、Brown Bearを1冊、先生たちにすらすらと言っていただくという経験をしてもらいました。
研修が終わってから、ある教頭先生からものすごくお叱りをうけました。英語がわからない子どもに英語の絵本をまるごと1冊やらせるとはどういうことか?こどもの負担ということを考えたことがあるのか?意味が分からないのではないか? まずはbrown=茶色、bear=クマ、と教えてからやるものではないか?
ごもっともです。私がいつも言っているbottom up(小さい方から積み上げていく)という英語教育をうけた方には、このような乱暴な手法は許しがたいものと受け止められたようでした。
後ほど、ある高校の先生からも”I see a red bird looking at me. ”というのは相当に高度な構文である、とお叱りをうけました。

「その後」
だんだんに小学校で、英語の絵本の読み聞かせというのは普通になっていきました。
その理由は、
1. 子どもが理解しやすい― 子どもにとって絵本を読んでもらう、というのは幼児の頃から親しんだ活動で、少々、わからない内容であろうと、それが英語であろうと、見て、聞く、という行為がわかりやすい。
2. 先生、指導者、ALTもやりやすい― 子どもに絵本を読んで聞かせるというのは、人類がごく普通にやってきた活動なので、自然にできる。
3. 成果があると感じる― 子どもは絵本の時間は静かにして、見て、聞いて、そのうち全部でなくても驚くほどの情報をキャッチする。それだけでなく、英語をまる覚えし、しかも長年にわたって一度覚えたことをずっと覚えている。手応えがあるのです。
4. そして今では、多読(なるべく多くの本を、それぞれの児童が個々に選んで自力で読もうとする)を小学校で取り入れているところも増えてきたのです。

「絵本導入の意味」
私は小学校でどんどん絵本を読み聞かせてもらいたいと切に願っている指導者の1人です。その理由は、指導者自身が1人、1人、自分なりに納得していればいいと思うのですが、私にとっては、
・authenticな内容
・才能のある作家が、ごく自然に書いた英語であること
・自由であること。文法や語彙制限にとらわれていないこと
が一番大きな意義だと思っています。

外国語を学習するという側面から考えれば、教科書というものを使って、その構造(つまり文法)を学んだり、読み、書きの力を養うという学習が必要なのは当然です。でもその前に、そしてその間も、その後も、絵本で提供されるような自然な英語で、 発想が自由なものに触れるのでなければ、いつまでたっても使える、そして通じる英語の世界に近づくことができません。
今でも次々と才能のある絵本作家が発掘されます。Brown Bearは今では古典です。古典の良さをみとめつつも、時には新作の素晴らしさを発掘するのも、指導者の力量のうちです。例えば、Mac Barnettとかはどうですか?私が一言、こんなことを書くと、 「いやいや、もっとすごい作家がいる」とおっしゃる指導者の方もたくさんいるでしょう。それが子どもの英語教育に係っている人の楽しみというか、生き甲斐でもありますよね。
「子どもが喜んでくれそう!」これですね。

松香洋子プロフィール
Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?CD付き絵本