2015年3月25日
異文化へのアンテナを育てよう

長野県茅野市日本人講師兼スーパーバイザー
J-SHINE(小学校英語指導者認定協議会)トレーナー
mpiパートナー会員 仲沢 淳子

レポート:小学校英語の現場から

今日はお薦めの活動を一つご紹介します。
45分間の最後に登場するextra(特別または追加、予備)の活動、その名も「カルチャータイム」です。時間がなくなってしまった場合には、extraという位置づけなので、削られてしまう活動ですが、眠い児童もパッと目を覚ます(笑)、低学年から高学年全ての学年に人気の活動です。

では「カルチャータイム」は具体的に何をする時間なのか?というと、世界の国の様々な文化を、ALTに写真等を使って紹介してもらうコーナー、、、正にその名の通りですね。
この時間は、TT(ティームティーチング)にこだわらず、HRTには児童側へ回ってもらい、児童と一緒に楽しんでもらうようにしています。児童達もHRTが楽しんでいる様子、共感している様子が、また二重に楽しかったり嬉しかったりするようです。

内容は、できるだけその日のトピックスや季節の行事に関連させて組むようにしています。
例えば、メインの活動がスポーツだった時は、「カルチャータイム」には「世界のおもしろスポーツ」をALTに紹介してもらいました。ユニークな発想のスポーツに児童は一同、釘付けに。
「道案内」を学んだ日は、「世界の変わった建築物」をとりあげました。世界遺産からそうでないものまで、我々の常識をはるかに越える珍しい建築物に、児童達の中からは、「本物見てみたい。」「あんな家住みたくないなぁ。」等、素直な感想がたくさん聞かれました。

私達が日常当たり前に思っていることの中には、実は“日本特有”のものがたくさんあり、「カルチャータイム」はそうした気づきも与えてくれるメリットがあります。 数年前、北欧出身のALTが6年生のクラスで、「自国の伝統的な卒業式」を紹介してくれたことがありましたが、美しい自然の中をパレードした後、教会の中で行われる卒業式の写真に、クラス中がうっとり。卒業式一つとっても、国によって随分違いがあるんだという発見になりました。

また、こんな事もありました。イギリス出身で料理が得意な男性のALTがいました。「食べ物」をメインの活動として行った日、彼が「カルチャータイム」に持ってきたのは、イギリスの伝統料理の本。 一ページ一ページめくるたび、見たこともないデザートや、日本には馴染みのない食材「うさぎ」などが現れたりして、「美味しいのかな!?」と児童は皆興味津々の様子。
そしてその数日後、「○○先生?、Here you are.」と児童数人が、ラップをかけたお皿を英語ルームに持って来ました。ラップにはポストイットが貼ってあり、英語で“grasshopper”と書かれていました。お皿を持ってきた児童は、誇らしげに「辞書で調べたの」、とにっこり。 さて、お皿の中の正体は、正真正銘いなごの佃煮!すると、私の予想に反して、ALTはいなごを手でつまむと、パクリと口の中へ。“Delicious!”と言いながら、むしゃむしゃ食べてしまいました。「おかわりをどうそ。」と言われ、さすがに少し戸惑っている様子でしたが(笑)。
児童達から、逆「カルチャータイム」を提供されて、それを有り難く受け取るALTには、心の中で思わず、「ありがとう。」と言いました。児童達が異文化を受信するだけでなく、日本文化特有のものを「受け取ってもらえた!」という発信の喜びと興奮が伝わってきて、私も嬉しくなったのを覚えています。

日頃の「カルチャータイム」の波及とも言うべき、こんな出来事もありました。ある時HRTとALTが野菜と果物のカードをそれぞれ並べていて、フランス出身のALTがトマトを果物の方に分類しました。するとすかさず児童の中から「トマトは野菜だよ。」と指摘の声が。 クラスで議論したあげく、ALTによるとフランスではトマトは果物とみなされることが多い、ということが分かり、児童達も納得。逆に、スイカを野菜に分類するのは、ALTの“Really?”との不思議そうな様子から、日本特有のものだとも判明しました。
脱線したと言えばそれまでですが、児童達はそういう時こそ真剣になります。後になって児童達の記憶に残るのは、むしろそういう情報ではないでしょうか。貴重な、貴重な脱線ですね。

実はこの「カルチャータイム」、指導者泣かせの活動でもあります。ALTのように英語の運用者であっても、すぐにうまく行くとは限りません。それは、「説明」とは全く異なる技術を要するからなのです。 視覚、聴覚に訴えるよう、あらゆる伝達手段を駆使し、英語だけでも分からせ楽しませる工夫をする、という意味で準備もそれなりに必要となります。しかし、頑張ってこの種の活動をマスターすれば、他の活動にもぐんと自信がつきます。 指導者のスキルアップにもなり、更に児童達を開眼させる素敵な時間、それが私のお薦め、「カルチャータイム」です。

小学校英語を民間でサポートする「J-SHINE」については こちらから