2013年3月12日
公立小学校外国語活動
(小学校英語)の歴史と展望
mpi会長 松香洋子
レポート:小学校英語の現場から

世界的に見ると、小学校に英語学習を導入するという取り組みは、1959年にスウェーデンから始まりました。 これは第二次世界大戦後にヨーロッパ各国で広まった、「二度と戦争をしない世界を作ろう。そのためには他文化や他者との交流のツールである“外国語、特に英語”を学ぶ必要がある」という発想が元となりました。
半世紀も前に小学校英語を始めたスウェーデンの国民が英語に困っていないことは、スウェーデンへ旅行した多くの人が実感することですが、現在ではスウェーデンだけではなく、ヨーロッパ諸国では英語は共通の言葉、ツールとして定着しています。

その後小学校での英語教育は、ヨーロッパから中近東へ、さらに東アジアまで広がり、いよいよ残りは韓国・台湾・日本のみとなった時、まずは韓国が、1997年から全小学校の全3年生の児童を対象に、英語の授業を導入しました。
当初は小学校の教員に研修を義務づけ、IT化とともに始めましたが、その後は、中学校英語の免許をもっている人材の投入、ALTの投入と試行錯誤しながら、今年からは、専科講師を4700人導入することになったと聞いています。

台湾でははじめから専科講師を3,000人雇用し、小学校1年生から英語の授業が導入されています。 2010年に学校をみせていただきましたが、IT化も進んでおり、週1回はテキストを使い、もう1回はビジュアル教材を使った授業をしていました。

さて、日本ですが、一部の私立小学校では、既に明治・大正時代から外国語の授業を導入していたところもあります。 しかし私立小学校は現在でも日本全国で200校余りしかなく、その数は全国にある小学校全体の1%程度です。99%の子どもたちが通っている公立小学校では、2003年に総合的な学習の一環として、「国際理解教育」が導入され、 2011年より「外国語(英語)体験活動」が5、6年生を対象に必修化されました。
この「小学校外国語(英語)活動」は、教科ではなく、「領域」といって、道徳教育と同じ区分に入っています。導入されて約2年になりますが、今もなお、特に保護者の方や一般の方の中には、具体的にどのような活動、授業が行われているかご存じない方も多いかもしれません。
そこでここでは改めて、日本における『小学校英語必修化』について、問い合わせの多い質問を整理してみたいと思います。

1.なぜ5、6年生で必修化になったのですか?
2005年の意識調査では保護者の7割が小学校段階からの英語必修化を希望していましたが、小学校における英語教育については賛成、反対、慎重論など行きつ戻りつの繰り返しで、国民的な合意がとれていない、というのが最大の要因です。 また、授業時間の確保、指導者の問題などの課題も多く、環境整備が整わないまま、2011年にやっと高学年からのスタートとなったというのが実状です。

2.何を目的に英語活動をするのですか?
学習指導要領には、「外国語を通じて, 言語や文化について体験的に理解を深め, 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り, 外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら, コミュニケーション能力の素地を養う。」と記されています。つまり、外国語(英語)を用いて積極的にコミュニケーションを図ることができるようになるのが目的で、英単語、英語表現などの定着が目的ではありません。

3.具体的にはどのような授業が行われているのですか?
音声を中心とした“体験活動”です。文科科学省から配布されている児童用テキスト「Hi, friends!1」を5年生で、「Hi, friends!2」を6年生で使い、デジタル教材の音源を活用することで聞き取りや、口慣らしをしてから、コミュニケーション活動(人とかかわっていくこと)をしています。

4.なぜ地域によって、活動内容が違うのですか?
5、6年生で必修化となり、「教育の機会均等確保や中学校との円滑な接続のため」また「外国語活動の質的水準を確保するため」に、学習指導要領に則り、国は全国統一の教材として「英語ノート」、「Hi, friends!」を各学校に配布しましたが、 細かい指導内容についての縛りはありません。教科ではないこともあり、各自治体にその指導体制、指導方針、指導内容を任せているので地区ごとにばらつきがあるというか、善く言えば独自性があります。

5.英語活動の時間はもっと増えないのでしょうか?
授業時間の確保、指導者の人数の確保、指導者の養成、研修などの環境整備がまだ整わない現状では、すぐに増やすことは難しいようです。 しかし、スタートする学年については、1年生から実施している学校は50%以上、3年生から実施している学校は60%を超えているという調査結果もあり、低学年化は視野に入れている学校も多いということです。

6.ALTの先生がいる学校といない学校があるのはなぜですか?
国が一律に、ALTを各校に配置しているのではなく、各自治体が外国語活動にかけられる予算によって、ALTを雇用しているからです。 また、外国語活動の指導体制も各自治体によって様々です。
2012年度からは文科科学省から指導書、年間計画例、指導案などが出されたこともあり、担任の先生一人で授業を行うことを原則としている自治体もあるようです。

7.JTEとALTの違いはなんでしょうか?
ALTはAssistant Language Teacherの略語で、一般的には日本人以外の外国人英語指導助手のことを言いますが、自治体によっては、外国人に限らず、英語指導のサポートをする指導者のことを日本人も含めてALTと呼んでいるところもあります。 ALTは必ずしも英語を母国語とする外国人でない場合も多々あり、フィリピン・韓国・中国・アフリカ国籍などなどがその例です。
JTEはJapanese Teacher of Englishの略で、日本人の英語指導者となります。JTEの中には、小学校での英語指導法を勉強されている指導者(J-SHINE英語指導者資格の認定を受けている方など)もいれば、英語のできる地域人材・保護者として学校からの要望でお手伝いとして入っている方もいます。

8.学級担任の役割は?
・ALTやJTEに任せてしまうのではなく、教室の前に立ち、授業の司会、進行役を務め、
授業をリードする。
・英語をたくさん話す必要はなく、DVD/CDを活用し、児童にたくさんの英語を聞かせて
あげる。
・日本人として英語を使う見本となり、児童と一緒になって身体を動かし、歌を歌い、
先生自身が英語を楽しんで使ってみる。
・児童が英語に親しむ環境を整え(英語のポスターや絵カードを教室に掲示するなど)、
クラスの雰囲気作りをする。
・児童を励まし、ほめる。

いかがでしょうか。これらの質問・回答から、日本における小学校外国語活動の内容がなんとなくお分かりいただけたでしょうか。 アジアを含めた諸外国と比べ、少し様相が違うことを感じられた方もいらっしゃるかもしれません。

私としては、外国語教育が日本の公教育の中に入った意義は大変大きいと感じています。
小学校は学校教育の基礎です。ここに、“国際理解”や“コミュニケーションの概念”、それらを深めていくための“ツールである英語学習”を入れることは、今後、世界の中で生きていく子どもたちには不可欠です。 北海道から沖縄までのすべての子どもたちに“平等に”外国語教育の機会が与えられるということは、これからの日本の未来に大きく寄与することとなるでしょう。

以下、現時点で私が公立小学校における外国語(英語)活動に対して希望している方向性について述べます。

1. 次回の指導要領の改訂2020年を目処に、外国語活動の実施を3年生からにしてほしい。さらによいのは、たとえ時間はすくなくても1年生から実施することである。

2. 教科ではなく、「体験活動」であるというスタンスはそのままにしてほしい。英語を勉強として教えるより、体験を通して学んでいくと切り口は小学生にあっている。

3. 専科講師の導入が必要である。現在、小学校英語にかかわっている支援者の最大の悩みはTT(ティームティーチング)をめざしているのに、打ち合わせの時間がとれない、ということである。専科講師の数は、人口比からいえば、台湾の4倍、韓国の2倍は必要なので、1万人から1万2千人となる。

4. 2013年度から、全ての高校での英語の授業は、原則、英語のみでおこなうという指針が出されている。この実施および成功を後押しするためにも、小学校時代から、英語による英語の活動に慣らすことが必要である。そのためにも、学級担任と英語のできるALTや地域人材とのAll Englishを目標とする活動が望まれる。(必要に応じて学級担任が日本語を使用することに反対しているのではない。)

5. 高学年児童には文字の導入が自然。もし、低学年からの音声的な英語の導入が可能であれば、高学年児童には、文字の裏付けをしてあげることが自然なことである。また、そうすることによって、小、中連携もスムーズに行く。あくまでも音声を大切にした文字指導の方法を模索していく時がきたことを実感しています。

最後に、世界共通語である英語の教育について、政府も民間もなんとか力を合わせて取り組んでいかなければ、既に危機的な状況になっていると言ってもおかしくないほど、日本は諸外国からそのレベルを引き離されています。
それでも、J-SHINE(NPO小学校英語指導者認定協議会)を立ち上げた10年前から比べると、日本の小学校における英語教育は随分前進しました。ここからは更に加速して、適切な導入方法を提案していく必要があるとひしひしと感じています。

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